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私にとってMBAの教室は劇場です。バッと手が上がった瞬間に風が起こりますよ。– 長沢雄次先生インタビュー(1)

マネジメント研究科教授 長沢雄次 先生


長沢雄次先生は3年連続でティーチングアワードを受賞するなど、学生からの支持が最も高い教員の一人です。その秘密に迫るべく「講義に挑む姿勢」「ハーバードビジネススクールでの経験」「MBAの価値」「担当科目であるストラテジックシンキング」について話を伺いました。なお、長沢先生の名商大ビジネススクールの教員になるまでの経歴について詳しくお聞きした内容は「ハーバードでの感動を学生に伝えたい。編」をご覧ください。

取材:2015年8月
語り手:長沢雄次
取材・構成:名古屋商科大学大学院広報

ハーバードと全く同じ雰囲気をクラスに持ち込みたい

長沢先生の講義で学生に伝えたいことは何ですか?

長沢先生: 「何のためにこの学校に来ているのか?」と聞かれた場合には、「自分の経験を伝えるためです」といつも答えています。知識を教えるつもりは実はあまりありません。そのため、私の講義に教科書は一切ないですし、事前にこれを読みましょうということもしていません。ひたすらケースディスカッションをしているだけです。私はハーバードビジネススクールに通っていましたので、その印象が強烈に残っています。やはりハーバードの先生はすごい、今思い返してみても素晴らしいです。私自身もあの先生方に近づき、ハーバードと同じ雰囲気を講義に持ち込みたいと思っています。

ハーバードの雰囲気とは?

長沢先生: ハーバードの先生は一切自分で教えません。学生に発言させてうまく結論を誘導します。それが先生方のテクニックでもあり、能力です。基本的に講義は行わず、ケースでの議論で結論を導き、学生に「そうだよね」と納得させています。私もそれに倣い、徹底的にやっているだけなので、講義で教えているつもりは一切ありません。私は、学生が互いの発言から学べるように誘導しているだけです。

ですが、こういった手法はとても難易度が高いです。事前に周到に準備しなければできません。こういう話が出たらこういう質問をしてこういう議論をしていく、というシナリオを何パターンも用意していなければできません。ケースの内容はもちろん、議論の流れを想定してティーチングノートを作って完璧に頭に入れ、講義では自分を完全にフリーハンドにしておかなければいけません。こうした準備ができていなければ、学生の発言を受けても展開できません。講義での学生の発言は全部覚えなければなりません。よく例えますが、教室は「劇場」、教員は「舞台俳優」です。俳優はすごくたくさんリハーサルをしますよね。教員も同じです。

先生の講義が学生から人気がある理由はなんだと思いますか?

長沢先生: 私が幸いにも学生から高く評価されている理由は、こうやってハーバード式の講義を実践しているからだと思います。私自身も努力なしにできているわけではなく、精一杯努力している結果です。事前準備をしっかりして講義では余裕を持っています。

さらに、講義で大切なのは学生の意見を否定しないことです。否定したら学生は萎縮してしまい、良い意見を言わなくなります。否定せずに同調し、この人はこう言っていますがどう思いますか、と次につないでいきます。もし、私は違うなと思っても自分では言わず、他の学生に発言させます。
クラスの雰囲気もすごく良いです。他の先生から「長沢先生の講義はよく手が挙がりますね」と言われますが、実際常に半分は挙がっています。受講生が多い講義では、学生がバッと手を挙げた瞬間に風が起こりますよ。すごくやる気が出ます。


経験と自信が価値になる

MBAはどんな価値があるとお考えですか?

長沢先生: 1つ1つの講義での経験が1つ1つの人生経験です。ケースを読み解いて解決方法を考えるということは、自分がその会社で仕事していたことと同じです。ビジネススクールを修了するまでに名商大ビジネススクールでは約200ケース、ハーバードでは約600ケースを学びます。つまり2年間で200回転職したのと同じと言えます。極論ですが、一般的には30〜40年働くなかで職を変えるといってもせいぜい5〜6回ではないでしょうか。MBAを学ぶ2年間には通常の人生の倍以上の経験が凝縮されています。この2年間では、学校に来ていない人の10〜20倍も早いスピードで成長できます。

これだけ努力してケースをやって議論して最終的にMBAを取得できれば、すごく自信が持てます。人間って誰でもそうですが自信がある人はすごく魅力的です。自信が人生を前向きに変えていきます。MBAをただの学位と捉えればそれで終わりです。MBAは知識を得る場であるかといえば、そうではありません。知識はすぐに忘れます。私がハーバードで学んだ知識も忘れてしまっています。何が残っているかと言えば、2年間で凝縮されたビジネス経験を積めたことと自信が持てたことです。それがハーバードで得た自分のビジネス人生を支えてきたものです。


戦略的思考は全ての科目で共通に使える科目

担当されている科目「ストラテジックシンキング(戦略的思考)」について教えてください

長沢先生: 戦略的思考は5つあります。1)物事を徹底的に考える、2)物事を俯瞰的に見る、3)相手の立場で考える、4)目的を明確にしてから実現するための手段を考える、5)目的と手段に整合性を持たせる_です。また、いわゆるMBAとして必要な戦略のフレームワークが幾つかあります。3C、5F、バリューチェーンなどです。講義では戦略的思考とフレームワークの2つを組み合わせ、繰り返し使います。フレームワークも実は戦略的思考を高めるための補助手段にすぎません。手段も教えつつ、実際の戦略的思考を繰り返しています。学ぶというよりも経験するという感じです。

ケースはどんなものを扱っていますか?

長沢先生: 皆さんが馴染みのある内容です。最初に任天堂のゲーム、次にウォルマート、ライアンエアー、ペプシコーラとコカコーラの100年戦争、アマゾンがどんな風に既存書店と戦ったか、最後がトイザらスです。どれも学生が知っている内容ばかりです。全部ハーバードの名作中の名作と言われているケースで、古いですが素晴らしいクオリティです。

戦略的思考は学生が最初に受講する科目ですが注意されていることはありますか?

長沢先生: ケースの準備の仕方や講義での発言マナーなど、2年間学ぶうえで必要なことを伝えています。定着させたいので、全部のケースにレポートを課しています。事前準備の負荷は高いですが、その分講義で積極的に発言できます。ハードかもしれませんが、すごく達成感のある講義になっていると思います。予習しなければならないということを最初に定着させなければその後が続きません。
戦略的思考は1つの科目ですが、その後の全部の科目で使えます。MBAとしての基本的な思考方法を扱っているので、他の科目と少し毛色が違います。MBAのコースは1つ1つの科目が会社の組織に当てはめられます。例えばアカウンティングは財務部長といったように、1つ1つの科目を全部会社の1つ1つの組織に分類できます。ですが、戦略的思考は該当部署がありません。そういう意味ではMBAのベースです。それ以降の全部の科目で使える内容です。

学生の反応はどうですか?

長沢先生: 卒業する際に皆さんと話をするとまず戦略的思考で衝撃を受けたという人が多いです。自分の力の無さを痛感し、2年間勉強する目標値になったスタートラインになったという人が多いです。