世界のエグゼクティブが集うハーバードビジネススクールでケースメソッドを体験
2026年7月19日から21日までの3日間、ハーバードビジネススクール(以下、「HBS」)のExecutive Education Program「Audit Committees in a New Era of Governance」に参加する機会しました。 私は弁護士として企業法務に携わる傍ら、複数の企業の社外取締役および社外監査役を務めています。監査委員会・監査役としての職責が年々高度化・複雑化する中で、世界の最先端のガバナンス実務を体系的に学び、社外役員としての知見を一段引き上げたい、という想いが本プログラムへの参加を志した動機です。 本プログラムは、監査委員会の中核的責務である財務報告の監督とリスクマネジメントを主題とし、戦略的財務報告、内部統制システムの強化、監査委員会とステークホルダーとの関係構築、倫理・コンプライアンスの実効性測定といったテーマを、3日間のキャンパス滞在型で集中的に学ぶものです。プログラム開始前に事前課題(ケース教材の読み込み)が課されました。キャンパス到着時にはすでに全参加者が共通の議論の土台を持っている、というこの徹底した事前準備こそが、HBSのケースメソッドの密度を支えていると実感しました。 教授陣は、プログラムチェアのSuraj Srinivasan教授をはじめ、Aiyesha Dey教授、企業不正研究の第一人者として知られるEugene Soltes教授、Krishna Palepu教授ら、コーポレートガバナンス研究を世界的にリードする顔ぶれでした。
世界中から集った素晴らしいボードメンバーとの議論
参加者は約65名。25カ国から、北米・欧州・アジア太平洋・中南米・アフリカ・中東と、文字どおり世界中の上場会社の監査委員会メンバー、取締役会議長、CFO、ゼネラルカウンセルらが集いました。売上高10億ドルを超える企業のボードメンバーも多く、初日のディスカッショングループから、各国の法制度や資本市場の違いを越えて「監査委員会は今、何に悩んでいるのか」という問題意識が驚くほど共通していることに気付きました。 議論のテーマは、古くて新しい財務報告不正——なぜ優良企業でも不正は起きるのか、監査委員会はどこでシグナルを見落とすのか——から、AIガバナンス、サイバーセキュリティといった監査委員会のアジェンダに新たに加わった最先端の領域まで、多岐にわたりました。ケース討議では、実在の企業の不正事例や危機対応を素材に、「自分がその監査委員会の席にいたら、どの時点で、何を問うべきだったのか」を徹底的に追体験しました。授業は個人の事前準備(予習)、ディスカッショングループ、クラス討議、個人の振り返りという4段階のサイクルで進み、朝食時から議論が始まる濃密な3日間でした。
得られた成果ー社外役員としての新たな視座ー
本プログラムを通じて得た最大の成果は、監査役・社外取締役としての「問いの質」が変わったことです。また、内部統制やリスク管理を単なるコンプライアンスのチェックリストとしてではなく、企業戦略と財務報告を接続する経営のインフラとして捉え直す視点を持つこと。そして経営陣・内部監査・会計監査人との緊張感ある信頼関係をどう設計するか、という実務的な知恵は、日本の取締役会・監査役会の実務にそのまま持ち帰ることができるものです。グローバルなボードメンバーとのネットワークも、今後の社外役員としての活動を支える大きな財産となりました。
NUCBでの学びが世界に通用した
忘れてはならないのは、HBSでの議論や思考の土台には、NUCBで鍛えられたケースメソッドでの議論の作法や、すでに修得した知識があったことです。NUCBは、HBSと同じケースメソッドを教育の中核に据え、AACSB・AMBA・EQUISの世界三大国際認証を持つ日本で唯一のビジネススクールです。教室の構造だけではなく、講義に至るまでの流れや、可能な限り学生に発言を促す教授のスタイルなども、NUCBとHBSは同じでした。日頃のクラスで「自分ならどう意思決定するか」、を問われ続けてきた経験があったからこそ、世界のエグゼクティブとの討議で、言語の壁こそあるものの、臆することなく議論に参加し、思考を深めることができました。
ボードメンバーとして、あるいは経営者として世界水準のガバナンスを学びたいと考える方には、NUCBでの学びと、その先にあるHBSへの挑戦を、自信を持ってお勧めします。