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学生の意見が行動経済学を教えていくうえで刺激になる - 岩澤誠一郎先生インタビュー(1)

#教員 #インタビュー #MBA

マネジメント研究科教授 岩澤誠一郎先生


行動経済学を専門とされている岩澤先生は、野村総合研究所および野村證券で、アナリスト、ストラテジストとして活躍された実務家教員です。軽快なトークで学生からも人気がある岩澤先生に「教えることの魅力」についてお話を伺いました。

語り手:岩澤誠一郎
取材・構成:名古屋商科大学ビジネススクール広報
取材日:2015年9月

教育も研究も好きなんですよ

2012年退職後はずっと教員をされているのですか?

岩澤先生: はいそうです。専任教員ですから(笑)。非常勤で他の学校でも教えていますが、2012年からはここの専任です。

教えようと思ったきっかけは何ですか?

岩澤先生: 最初は明治大学のビジネススクールの先生に行動ファイナンスを教えて下さいって言われたのがきっかけです。いずれは野村證券をやめて教員や研究者になると思ってたんでしょうね、その準備みたいな感じで非常勤をやっていました。やっぱり好きなんですよ、教育も研究もね。特に研究が好きなんですよ。だからこの職業に就きたかったんでしょうね。

教えることの魅力は何ですか?

岩澤先生: 教えるのも好きで、教えるのは何がいいかというと、これもまた身勝手な話なんだけど、教えることでいっぱい研究のネタが得られるんですよ。

学生の意見や視点などで気づきを得るのですか?

岩澤先生: これは私の研究領域と密接に関わっているんだけど、行動経済学について言うと、今までの経済学っていうのは、人間の行動を抽象的なモデルの形で描くんですね。どういうモデルにするかと言うと、人間は儲けるためなら非常に合理的に行動するっていうモデルなんですよ。もちろんそれは全部間違いというわけじゃないです。お金が関わったらみんな真剣だから、ある程度は計算してやるじゃないですか。だけどよく自分のことを考えてみればわかると思うんですが、後悔するような買い物してみたりとか、いろいろありますよね、そういう側面が普通の経済学だとボコッと落ちてしまうのですよ。

それに対して行動経済学っていうのは、リアリズムの見地に立って人々の行動とはどういうものかということを考える学問です。それがバラバラだったら学問は成り立たないんだけど、みんなが同じように間違える、エラーのある種の規則性みたいなものがあるんですよ。システマティック・エラーっていうんですけど。そういうのを研究しましょうというのが行動経済学の重要な要素です。

で、行動経済学の授業の話ですが、いろんな事例を議論しながら、今の行動経済学はこの現象をこのように解釈しますと言いますよね。そうすると時々、学生がどうにも腑に落ちないって言うことがあるんです。私の経験ではとかいろいろと言い始めます。これが私にとって参考になるんですよ。今言われている理論は違うんじゃないかとか、いろいろなことを考えさせられます。それで教えるのが非常に好きで、実はそういう興味を持ってみなさんの話を聞いています。

日本の会社ではマネージャーがマネージャーの教育を受けていない

学生さん一人一人を観察されているのですか?

岩澤先生: 観察が得意なんですよ。彼の反応がちょっと弱いなとか。クラスの反応が弱い時ってのはやっぱり、その理論が間違っているか、または私の教え方が悪いのかのどちらかなんです。だから反応が弱い時は考えさせられるわけです。敏感に感じ取るのが得意なんです。この点、日本人男性としては結構突出してるかもしれない。これも自分のやっている学問と密接に関係するんですけど、日本の男性は相手の考えていることを感じ取るのが下手だと思うんです。特に管理職になった人が問題でね。本当は、管理職は部下が何を考えててどういう仕事をやりたいのかについて、もっと敏感にならなきゃいけないんだけど。そういうところが弱いよね。

それは何が原因でしょうか?

岩澤先生: 私の分析では、日本の会社の構造的な問題であり、より深くは日本社会の問題ですね。日本の会社ではマネージャーに選抜される人が、必ずしもマネージャーとしての能力を持っている人とは限らないんですよ。プロ野球の監督を考えればわかりやすいんだけど、例えばジャイアンツの原監督(2015年9月取材当時)は何で原さんが監督になったかというと、いい選手で人気があったからであって、原さんが監督としてふさわしい能力を持っているからという理由で監督になったわけじゃない。日本の多くのマネージャーは、そういう形で選ばれてるんですよ。セールスが上手だった、あるいはエンジニアとして優れていたとかそういう人がマネージャーになる。しかしセールスが上手な人が管理職としても優れているとは限らないですよね。一方、アメリカやヨーロッパの会社では管理職は管理職として採用されるんですよ。平社員として採用した人についても、管理職になる能力があるかどうか、比較的早い段階で適性を判断されるのが普通です。つまりそこでは、マネージャーにはマネージャーとしてのスキルが必要であるという明確な認識があるわけです。

もう1つは、日本人がコミュニケーション下手だということですかね。言わなくてもわかるというのが非常に強いんですよ。察しなさいという文化が支配的なんです。しかし部下っていうのは世代も違うし、必ずしも察してわかるもんじゃない。言葉でお互い言いたいことを伝え合わないと、コミュニケーションできないんですけど、そういうことに慣れてないんですね。日本の夫婦なんかでも会話は少ないって聞くし、学校なんかでも言葉のコミュニケーションのトレーニングがなされていない。最近は子供がゲームに使う時間が多くなってますますダメになってるんじゃないかと。そういう社会の問題ですね。今、私これについて論文書いているんですよ、研究テーマなんです。