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「瓢箪から駒が出る」発想の新ビジネス

「瓢箪から駒が出る」発想の新ビジネス
小山 龍介
名古屋商科大学ビジネススクール 准教授

 地域にある文化財を活用して地域活性化を行う取り組みに関わっていると、どうしてもぶつかってしまうのが、「本物ではない」という反応だ。たとえば、刀剣ブームが起こって各地で刀剣をテーマにした展示を行うと、若い女性が大挙して押し寄せるようになった。火付け役となったのは、2015年から配信が始まった刀剣乱舞というゲームである。名刀が擬人化して登場するこのゲームは、アニメやミュージカルとなって大人気を博す。その結果、刀剣女子と呼ばれるファンたちが、「本物の」刀剣をひと目見たいと、推しの刀剣目当てに博物館に押し寄せたのである。

 こうしたブームは、文化財指定されている刀剣と比べると、胡散臭さも伴っている。擬人化された名刀のイラストは、職人が確かな伝統技術によって作られた歴史的名刀と比べれば、程度の低いものであり、とても文化財とは呼べない。歴史学者ダニエル・ブーアスティンは、マスメディアの注目を集めるために作り込まれたイベントを「疑似イベント」と呼んだ。観光地のイベントは観光客向けにアレンジされたまがい物であり、観光客は「本物」が体験できるような旅行が不可能になっていると指摘した。ディーン・マッカネルは、観光とは「オーセンティシティ(真正性)」を求めるものだと考え、こうした疑似イベントを否定的に捉えた。

 一方、エリック・ボムズボウムは、伝統的な儀式が実は近年になって創られていたことを明らかにし、これを「創られた伝統」と呼んだ。ジョン・アーリ、ヨーナス・ラースンは、観光客に見られることによって変化することを、むしろポジティブに捉え直した。「観光のまなざし」によって、バリのファイヤーダンスは洗練され、「創られた伝統」として受け継がれている。それらがすべて悪いものだと断罪はできないのではないか。

 インスタ映えなどさらに記号化されていく観光にあっては、伝統を受け継ぐだけでなく、そこで生まれた偶然の産物を新しい伝統へとつくりあげる創造性が欠かせない。朝鮮の茶碗を茶器に見立てた千利休のような見立ても欠かせない。業界人が考える「真正性」にこだわりすぎて新しい動向を見逃してしまうことは、まさにイノベーターのジレンマであろう。瓢箪から駒がでてくるような軽やかさが、文化観光にも新規ビジネスにも求められているのである。