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社員が生き生きと仕事をするために 「個」を活かす企業文化を(1)

安部さん × 岩澤教授
78年前の設立趣意書に『のびのびと自由闊達にして愉快なる理想工場』と書かれていたたソニーの企業理念は、今も引き継がれており、安部さんは「Special You」という人事施策の標語を作りました。伝統的な日本企業としてはまだ珍しく、個を「求む」「伸ばす」「活かす」がキーワードとなっています。安部さんご自身は、常に新しい環境に身を置き、非連続の職歴を経たことでリーダーとしての成長ができたと言います。企業文化はリーダーの行動の集合体であるという力強いメッセージをいただきました。

Sony’s company philosophy, as first envisioned in their founding prospectus 78 years ago, vows to create “an ideal factory that stresses a spirit of freedom and open-mindedness.” The company has stayed true to this philosophy and in that same spirit, CHRO Ambe has introduced the people philosophy “Special You, Diverse Sony” for their HR initiatives. The essence of this philosophy is unique among traditional Japanese companies as it fully focuses on each individual and enhances it with the idea of “attracting” “developing” and “engaging” individuals at the highest scale. In his personal career, Mr.Ambe believes that he was able to grow as a leader by continually placing himself in new and diverse environments where the new skillset was required each time. His words leave us with the impactful message that corporate culture is a representation of a leader’s actions.

ソニーグループ株式会社の人事・総務の執行役として、数々の人事施策におけるリーダーシップを発揮され実績をつくられている安部和志さんをお迎えし、本学の岩澤誠一郎研究科長と、実業界におけるリーダーシップや人事の観点で視るリーダーの力量などについて対談をおこないました。

創業時から受け継がれ続けているソニーの企業理念

岩澤:この度は対談させていただき大変光栄です。名古屋商科大学ビジネススクールでは、実業界におけるリーダーを育成することをミッションとし、リーダーとは一体どんなことを実践しているのか、伝えていきたいと思っております。今日は安部さんが実践されている人事施策とその背景にある企業戦略や企業文化について、お話を伺えればと思います。

安部:ソニーでは、将来のリーダーを育てるための企業内大学「ソニーユニバーシティ」を2000年に創設し24年が経ちました。4月から私が学長を務めており、自社内の知見の提供だけに偏らず国内外のビジネススクールとご一緒し、広範な知見を活用して行きたいと思っています。

岩澤:海外のビジネススクールを含め、外部の大学とも提携されていく姿勢がきちんと見えて素晴らしいと思います。

安部:岩澤さんご自身も実業界を経験されていて、実感値として理解されていますよね?

岩澤:厳しい環境で仕事をした経験もありますが、振り返ってみると、人を育てる、そして活かす、その難しさを思います。ソニーさんのような個への理解が深い会社ばかりだったら素晴らしいのにな、とも。日本の企業は、従業員という言葉が示しているように、会社が主で、社員は従であるという観念が伝統的にありました。ところが、ソニーさんの人事に関する考え方はまったく違う。安部さんがお作りになった「Special You, Diverse Sony」という標語。あなたがスペシャルなんだよ、というメッセージは今までの日本の企業にはなかった。そうした考え方が生み出された背景には、何があったのでしょうか。

安部:人事施策を決定する大きな要素は2つあると思います。ひとつは企業が軸としている基本的な価値観、企業理念です。これは時代を超えて不変的なもの。もうひとつは、その時々におかれた経営環境に即して立てられる経営戦略です。ソニーの人事の取り組みをユニークだと捉えていただけるなら、この2つ各々に起因していると思います。ソニーの企業理念を遡ると創業時にたどり着きます。愛知県出身の盛田昭夫さんが、井深大さんと2人で戦後まもなく、東京通信工業と言う会社を興しました。彼らは「自由闊達にして愉快なる理想工場」と言う言葉を設立趣意書にしたためています。我々にとってこの言葉は常に拠り所となり、何をやるか、だけではなく、どのようにやるか、を大切にしてきました。

岩澤:今の時代の感覚で見ても、非常に画期的ですね。

安部:社名をソニーに変更する時も、ソニー電気やソニー電子にはしなかった。ソニーだけであれば、50年後どんな会社になっているかわからない可能性を秘めながら、常に社会に貢献し、世の中を幸せにし、何よりも社員がのびのびと自由闊達に愉快な理想工場で働き続けてもらいたい、そう言った思いを込めたわけです。今、パーパスや人材理念で表現していることは、このソニーのレゾンデートル(フランスの哲学用語で存在意義の意)を言い換えているわけです。

岩澤:その理念がずっと引き継がれ、賛同する人が集まるので、思いがきちんと継承されている。

安部:2年後に創業80年を迎えようとする歴史の中、継承が難しい時はもちろんありましたが、常に立ち止まって理念に立ち返ることで乗り越えてきました。今のソニーは6つのセグメントで構成されていますが、共通の人材理念の下、多様な事業戦略が各事業の人事戦略の基本になっています。

岩澤:企業理念に賛同して集まった非常にユニークで多様な人々に、のびのびと仕事をしてもらいながら、価値を産みだしてもらう。それが人事施策の基本として出来上がっていった。企業理念と事業戦略の両方が、今の人事施策を作っているということなんですね。

安部:~個を「求む」「伸ばす」「活かす」~をソニーグループの人事施策の枠組みとしています。求めて賛同する人に集まってもらい、各々が成長しながら活躍する、これを人事施策の基本に置いています。

日本の伝統的な企業の人事的側面での特徴とは?

岩澤:JTC(ジャパントラディショナルカンパニー)という言葉がありますが、今までの伝統的な日本の企業では、「個」を活かす考え方はかなり珍しいと思います。会社と個人が対等にある、ということでしょうか。

安部:資本市場の原則で言うと、当然、雇う側と雇われる側と言う立場の違いはあります。アメリカのように労働流動性の高い国で近年、人が組織に従うのではなく、組織が人に従う、と言う説が出始めています。これは結局、企業の構成要素である“人”が、市場競争力に最も影響力を及ぼすと言うことの表れだと思います。日本の企業もその点に着目し、JTCと呼ばれる企業も、取り組み方は異なれど、同様に個を活かそうと言う動きになってきています。

岩澤:JTCにも長所があるとすると、それはどのような点でしょうか?

安部:日本の企業が圧倒的に強いところは、企業理念がしっかりと組織に浸透し、社員に共有されているところだと思います。ただ、個を活かす仕組みについては、まだまだできることはあるでしょう。盤石な企業理念を持った企業が、やり方を少し変えて個性を活かせるようになっていくと、効果は大きいと思います。

岩澤:ずっと日本で育っていると、日本の社会はなんとなくシステムで回ってしまうところがあって、それを繰り返していくと考えない人間になっていく気がします。考えないということは会社から見ると都合が良いこともあるかもしれません。一方でソニーさんの場合は、厳しいことを社員に科して、常に主体的であれと言い続け、個を尊重している。これは視点を変えると「やりたいことを頑張ってやってちょうだい」と突き放しているようにも見えますね。

安部:鋭いご指摘をいただきました。社員に対して決して、ただ寛大と言うわけではない。適切なプロセスでアサインされた職務に対しては、責任を持ってもらうことが前提となり、互いに期待と結果で向き合う緊張関係があってこそ、組織も人も伸びる、決して楽な環境ではないかも知れません。

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ソニーグループ株式会社 執行役専務(人事・総務担当) 安部 和志
Kazushi Ambe

1984年、ソニー株式会社に入社。ソニー・エリクソン・モバイル・コミュニケーションズ バイス・プレジデント、Sony Corporation of Americaシニア・バイス・プレジデントなどを経て、2014年、業務執行役員SVP。2016年、執行役員コーポレートエグゼクティブ、執行役EVP。2018年、執行役常務。2020年、執行役員専務。2021年、ソニーグループ株式会社執行役専務、人事、総務担当、現在に至る。

ソニーグループ株式会社 執行役専務(人事・総務担当) 安部 和志さん

名古屋商科大学ビジネススクール研究科長 岩澤 誠一郎
Seiichiro Iwasawa

1987年野村総合研究所入社、証券アナリスト業務に従事。2006年から野村証券でチーフ・ストラテジストとして内外の株式を中心に市場を分析。10年にマネージング・ディレクター。12年から名古屋商科大学大学院教授。21年から大和アセットマネジメント学術アドバイザー。22年に名古屋商科大学大学院研究科長に就任。専門は金融経済学・行動経済学。International Review of Economics and Finance誌などに論文を発表。著書に『ケースメソッドMBA実況中継04行動経済学』。米ハーバード大学博士(経済学)。

研究科長 岩澤誠一郎 教授