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企業と社員が成長するために必要なリーダーの本質とは何か?(1)

福士さん × 岩澤教授
リーダーが確固たるマネジメントポリシーを持ち、それを詳細に渡って書き記し、メンバーに理解をしてもらうこと、そしてメンバーと業務としてのコミュニケーションをきちんととることがなによりも大切です。そして、組織風土の改革のためには、疑問に思ったことに対してしっかり立ち向かい、改革が必要だと考える同志を増やしていきましょう。たとえ考えが違っていてもいいので、改革に向けてともに歩む同志たちとともに、現実だけではなく未来を見て、少しずつ着実に未来に向けて舵をきります。慎重に見極めていれば、必ずその転換点がやってきますから。

In this discussion, former Vice President and CDO of Ajinomoto, Hiroshi Fukushi, emphasized the importance of a leader having a firm management policy, documenting it in detail, and ensuring that team members fully understand and communicate effectively within the organization. Additionally, the conversation focused on the need for organizational culture reform, urging leaders to face challenges head-on, promote necessary changes, and increase the number of colleagues who are aligned with the vision of reform. Even with differing views, the key message was to move forward together toward a shared vision, balancing both the present reality and the future. The dialogue concluded with the belief that, through careful assessment and steady progress, the turning point toward positive change will inevitably come.

日本最大級の食品企業である味の素が、株価低迷という最大のピンチから生まれ変わって業績を伸ばしたのには、経営陣に福士博司さんが就任し、企業風土を改革させたからだと言われています。本学の岩澤誠一郎研究科長が、福士さんをお迎えし、福士さんが実践されたリーダーのマネジメントや考え方について、対談をおこないました。

組織文化改革の先駆者として味の素を再生させた立役者

岩澤:福士さんのご著書は何度も拝読しまして、感銘を受けた箇所が数多くありました。今日は、味の素をいかにして改革させたのか、その時のリーダーとして何を考え実践されたのか、お話をうかがえればと思います。実業界におけるリーダーを育成することをミッションとしている名古屋商科大学にとって、福士さんの企業改革理論は大変貴重なお話になると思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

福士:技術系として入社した私が経営側の人間になったのは、経営者になるという‘夢’と同時に、味の素の経営に課題意識を持ち続けていたからです。そして味の素が改革に成功した一番の要因は、企業文化と風土を変えることができたからだと感じています。企業戦略や組織論の土台として、企業風土や文化は非常に大切なのです。改革の仕掛け人として、何をしてきたかについて、お話させていただきます。

岩澤:そうですね、まずはイントロダクションとして、福士さんが副社長になられてから味の素がどう変わったか、わかりやすく株価でお話ししましょう。副社長になられた2019年、株価は連続低迷、時価総額1兆円を割っていたのだそうですね。それがたった3年で、時価総額が3倍になった。一体3年の間に何が起こったのか?福士さんはリーダーとして何を考え、実践されたのかについて教えてください。

福士:味の素にはグローバルな食品企業としてグローバルトップ10クラスで、売上規模と組織の拡大を目標にしてきた歴史がありました。しかしながら売上を増やすことばかりを追っていました。結果、収益性は下がる一方。株価は4年連続で下がりました。経営の視点で見て、こういう時の策として私が許せないと思うのは、トップの首をすげ替えて問題を終わらせてしまい、戦略は前と何も変わっていないということでした。そこで、既存の戦略を変更していかなければ、私が経営陣に入った意味がない、私がしゃしゃり出ていかないと、と思ったわけです。そこから、土台となる企業風土と文化と戦略との双方の改革に取り組みました。

岩澤:食品中心であること、売上重視であることが、企業のDNAに染み込んでいた味の素にとって、組織風土を変えるというのは相当な困難を伴われたのではないでしょうか。そもそも福士さんは、どうして組織風土改革というマネジメントに至ったのでしょう?

福士:アミノサイエンス事業の本部長をしていた時に、10ほどの完全に縦割で動いていた事業をひとつのベクトルにまとめていくという経験をしました。10事業はそれぞれが好調ではない面が多く、また、すべてバラバラに動いていて横のコミュニケーションもありませんでした。そこをまとめていくのは相当大変なように思われますが、実は非常にシンプルな方法をとりました。共通の土台でコミュニケーションをとるために、すべての事業部に共通するマネジメントポリシーを味の素の歴史で初めて作りました。ビジョン設定から会議のやり方、マーケティングやポートフォリオに至るまで事細かに書かれた60ページに渡るグローバルに通用する日英併記のマネジメントポリシーです。それまでの味の素には、上長が明文化したマネジメントポリシーを掲げるという風土がなかったため、日本式のあうんの呼吸で仕事をしていたのです。グローバル化を標榜しながらマネジメントポリシーがなく、日本式のあうんの呼吸で仕事をするとは、矛盾の極みですが、実は味の素以外の多くの日本企業に共通した欠点なのです。マネジメントポリシーを明確に書き記して伝えることは、リーダーの一番大切な役割です。そして今から思えば、この時にグローバルな全社の組織変革の練習をしていたのかもしれません(笑)。

岩澤:縦割の事業部をマネジメントポリシーでまとめて、それを組織の中にインプリメントするには、どのような策をとられたのでしょうか?

福士:基本は対話です。組織の調子が悪くなった時は、コミュニケーションがとれていない状態のことが多い。そこで、まず隣の人がどういう人なのかを知る、というところからはじめました。個人目標発表会を上長から順番に発表していく会です。組織というのは、10人いたら10人プラスアルファの効果をだしてこそはじめて組織と言えるのです。10人いて10人以上の成果がないのでは、組織とは言えません。

岩澤:元々コミュニケーションが豊かな企業なら、それは容易かもしれませんが、社員が率直に語り合うというのはなかなかハードルが高いですね。それを味の素では業務としておこなったということなのですね。

福士:その通りです。業務の一環としておこない、一人ひとりに対してアドバイスをし、各人が組織に対して意見を言う。こうすることで、人が成長していきます。これを‘個人/組織/事業の共成長モデル’と呼んでいます。

岩澤:相乗効果が生まれていくのですね。居酒屋に行って愚痴を言い合ってきたのは今までの日本企業の悪しきところでしたから。

福士:不在の第三者を悪者にしてやり過ごす“批判と忖度の三角関係”に陥るのです。経営陣と従業員と中間管理職の三者が、二者対一者となり、二者が忖度して一者のことを批判する。この三者で批判と忖度を続けるわけです。

岩澤:マネジメントポリシーの明確化、その実績を評価されて、経営陣へと抜擢されたのですね。

DXと組織風土改革の方針

岩澤:福士さんは副社長就任と同時にCDOにも就任されましたね。味の素初のCDOとしてDXを成功させた結果、一般社団法人CDO Club Japanの CDO of The Year 2020を受賞されています。CDOとして方針は当時どのようにお考えになったのでしょうか?

福士:デジタル技術の導入は、DXの真の目的ではありません。デジタル技術を活用して組織文化風土を改革するのが目的です。DXの本質は組織として仕事のやり方を変えることにありますから、そこを間違えてはいけないと思います。

岩澤:なるほど、目的を見間違ってしまうと、結果が違ったものになってしまうということですね。大企業でその目的を認知させるのは、また大変なことだと思われますが。

福士:全社が一枚岩になって、みんなが共通の理解をすることがとても大切です。味の素では、企業としての価値創造ストーリーを作りました。それまで味の素の食品部門で大切にしてきた“美味しさへのこだわり”ではなく、グローバルに、食品以外の部門も一体となれる“健康で世の中に役立つ“というストーリーです。

岩澤:そこにDXをどう組み込ませたのでしょう?

福士:DXによって、仕事の仕方を見える化しました。企業の見えない資産をどう見せるか、がDXの使命です。そしてKPIがきちんとまわるようなマネジメントをしよう、それが味の素のDXです。

岩澤:DXは技術導入ではない、ということですね。

福士:そうですね。私がDXでCDO of The Year 2020を受賞したのはテクノロジーではなく、組織文化風土や仕事のやり方を変えて、企業再成長で評価されたのだと思います。

岩澤:自分でパーパスや改革のしくみを考えて、社長や会長を説得し、過去の中期経営計画の連続失敗を認め、企業風土改革へとつなげていったこともすべて含めての評価ですね。

福士:アミノサイエンス事業のころから、子会社や事業の再生の取り組みを続けてきたので、改革や変革、再生に慣れているということもあるでしょうが、やはり教科書的なソリューションでは、人は動かない、という結論ですね。

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味の素株式会社 元代表取締役副社長兼CDO 福士 博司
Hiroshi Fukushi

北海道札幌市生まれ。北海道大学大学院工学研究科修士課程を修了後、味の素株式会社に新卒で入社し、働きながらUSQ(University of Southern Queensland)にてMBAを取得(2004年)。アミノサイエンス事業を中心に社内で経験を積んだのち代表取締役副社長兼CDOに就任。味の素初のCDOとして全社のDXを成功させ、一般社団法人CDO Club Japan のCDO of The Year 2020を受賞。現在は味の素の特別顧問、東洋紡、雪印メグミルクの社外取締役や、他数社の経営顧問などを務めながら企業改革の実践とそのガバナンスをサポートしている。著書に『会社を変えるということ』(ダイヤモンド社)がある。

味の素株式会社 元代表取締役副社長兼CDO 福士 博司さん

名古屋商科大学ビジネススクール研究科長 岩澤 誠一郎
Seiichiro Iwasawa

1987年野村総合研究所入社、証券アナリスト業務に従事。2006年から野村証券でチーフ・ストラテジストとして内外の株式を中心に市場を分析。10年にマネージング・ディレクター。12年から名古屋商科大学大学院教授。21年から大和アセットマネジメント学術アドバイザー。22年に名古屋商科大学大学院研究科長に就任。専門は金融経済学・行動経済学。International Review of Economics and Finance誌などに論文を発表。著書に『ケースメソッドMBA実況中継04行動経済学』。米ハーバード大学博士(経済学)。

研究科長 岩澤誠一郎 教授