キャンパス

教員 & 研究

Faculty & Research

研究活動紹介

Research Activities

従業員エンゲージメントの向上をめざす

従業員エンゲージメントの向上をめざす
矢本 成恒
名古屋商科大学ビジネススクール 教授

 企業の生産性を向上させる要因はいくつかあるが、従業員エンゲージメントもその一つである。従業員エンゲージメント(Employee Engagement)とは、従業員が仕事や職場に対して持つ心理的なつながりや意欲であり、組織への主体的な貢献意識である。従業員エンゲージメントが高い職場は、生産性が高く、離職率は低く、創造性やイノベーションが発揮されるという特徴がある。

 2020年以降のコロナ禍では在宅勤務が多くなり、多くの企業で従業員エンゲージメントの低下がみられていた。特に管理職は、上司や部下とのコミュニケーション、部下の指導や評価、自らの仕事の成果の認識に対する疑念など、問題を数多く抱えていた。そしてこの期間に、従業員エンゲージメント向上施策をとった企業とそうでない企業の間には、エンゲージメント調査のスコアに差がみられていた。施策をとった企業は、在宅勤務であっても組織への貢献意識が大きく向上していたのである。そして、その施策は、従業員の成長のための研修、成果のフィードバックと正当な評価(上司とのミーティングなど)、心理的安全性の確保(コミュニケーション促進策など)など様々な観点から実施されていた。

 現在は日本でも多くの企業が、エンゲージメント調査をして様々な施策を実施しはじめている。しかし、中小企業においては、従業員エンゲージメントの向上の取り組みはそれほど活発でなく、エンゲージメント調査もほとんど実施されていない。中小企業は、従業員の離職率の高さが生産性に影響を与えているという調査があるが、その原因となる従業員エンゲージメントの状況もわからないのである。しかも、日本の中小企業は日本の全企業の99.7%、全従業員の68.8%という多数を占めていながら、その生産性は大企業の2/3程度にとどまっているのである。そのため、日本全体の成長のためには、特に中小企業の生産性の向上が期待されているのである。

 従業員エンゲージメントの向上の施策は、すでに述べたような観点から、1オン1ミーティング、社内イベント、風通しの良い社風つくり、個人のキャリアの明確化やその成長の支援、評価の公正さとフィードバック、表彰と動機づけなど様々である。高いコストがかかる施策が求められているわけではなく、経営者がある程度稼働をかけて従業員個人の努力を認め、成長を支援すればすればよいのである。従業員エンゲージメントの重要性の理解はまだ十分とは言えず、離職率も高い状況が続いている。

 日本においては、従業員エンゲージメントの向上について、どのような施策がどの程度の成果を上げることが期待できるのか、またどの程度離職率の減少に寄与するのかなどは、未だ研究途上にある。しかし、組織で働く意欲や組織に対する貢献意欲を高く持ってもらうために、さらにこの分野の研究を進めていきたい。

Reference

矢本成恒, & 安藤真一郎. (2022). 在宅勤務における従業員エンゲージメント向上施策についての考察. 開発工学, 42(1), 39-42.
安藤真一郎, & 矢本成恒. (2021). 従業員エンゲージメントを高めるリモートワークとは?. 開発工学, 41(1), 39-43.