「楽しくなければ仕事じゃない!」を本気で考える経営 HILLTOP株式会社 / Management That Truly Believes: “If It Isn’t Fun, It Isn’t Work!” HILLTOP Corporation
磯辺 剛彦
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
Takehiko Isobe, Professor, NUCB Business School
京都宇治市のHILLTOP株式会社は、もともと自動車メーカーの下請けの町工場だったが、今では多品種単品の切削加工メーカーに変身した。仕事の内容は、試作品を中心に、1個、2個の受注が全体の8割を占めるワンオフのビジネスモデルを展開している。毎日同じ製品を大量生産していた町工場は「24時間無人加工場」へと変貌し、これまで培ってきた職人の技をデータベース化し、プログラミングなどの新技術を積極的に取り入れた。「量産の仕事はしない」「ルーティン仕事はしない」「職人をつくらない」、そして「世界の工場をDX化し、人にしかできない価値ある仕事を追求する」というのがHILLTOPの理念である。
HILLTOP Corporation, located in Uji City, Kyoto, originally started as a small subcontracting factory for automobile manufacturers. Today, however, it has transformed into a machining company specializing in high-mix, low-volume production. Its work focuses mainly on prototypes, with orders for just one or two pieces accounting for roughly 80% of its business, essentially a one-off production model. What was once a small factory mass-producing the same products every day has evolved into a “24-hour unmanned machining facility.” The company has digitized the craftsmanship and expertise it cultivated over the years, turning it into a database while actively incorporating new technologies such as programming. HILLTOP’s philosophy is grounded in several bold principles: “We do not take on mass-production work,” “We do not do routine work,” and “We do not create traditional craftsmen.” Together, they underpin a vision to “digitally transform factories around the world and pursue meaningful work that only humans can do.”
京都本社
HILLTOPの創業は1961年、自動車メーカーから仕事を請け負う典型的な町工場だった。安定はしていたが、付加価値は低く、価格は常に叩かれる。後を継いだ山本昌作氏は、そんな仕事が大嫌いだった。「人は人にしかできない仕事があるはず」「楽しくなければ仕事じゃない」と考え、それまで8割を占めていた自動車部品の仕事をすべてやめた。
自動車部品の大量生産をやめ、多品種少量・単品生産へ切り替えたが、単品の仕事が増えても、それだけでは人的な作業が減るわけではない。そこで取り組んだのが製造作業の定型化である。職人の技術やノウハウをすべてデータベース化、プログラム化し、加工を機械に任せる。そうすることで人は創造的な仕事に専念でき、リピートの注文が入ったときにも迅速に対応できる。
職人の仕事の良さは「人につく」にある。「どうやってつくったのか」を知っているのは本人だけで、ほかの人では再現できない。そこで製品をつくったときの加工環境を再現できれば、誰がつくっても同じものがつくれるはずだと考えた。たとえば、釜でご飯を炊くとき、火やその日の気温によって、また銘柄によって炊き加減が変わる。一方、炊飯器のスイッチを押せば、誰でも、いつでも、同じように美味しいご飯が炊ける。炊飯器は、主婦を「ご飯を炊く」というルーティン作業から解放する画期的なものだった。炊飯器の発想は、大手外食チェーンのオペレーションに出会うことで、より具体的なものになった。大手外食チェーンは入ったばかりのアルバイトでもおいしいハンバーガーを焼くことができる。ビーフパティの保存温度、加熱温度や時間など、調理方法がすべて標準化されているからだ。
そこで、大手外食チェーンのやり方を参考にして、加工環境を確実に再現できる情報のデータベース化を進めた。工場のありとあらゆるもの、刃物やボルト1本に至るまですべて番号をつけ、細かく番地をつけた。次に、職人一人ひとりがバラバラに持っていた機械セッティングやプログラミングのノウハウを全部引き出して、統一基準となる標準値を決めた。
最新鋭の5軸マシニングセンタをはじめ、様々な加工機を完備
当時は家庭用パソコンが普及し始めたころで、パソコンを工作機械の自動制御に応用することを思いついた。職人技をデータベース化するにあたり、まず製品ごとに加工工程を細分化して、似ているもの同士をカテゴリーにした。たとえば、ある製品を削るのに「どの刃物を、どの順番で使って、どの位置から、どれだけの回転数で、どのくらいの速さで、どのくらいの時間をかけて削るのか」というのは、職人によってやり方が違う。そこで標準プロセスやデータを導き出し、個人の経験に頼ったあいまいな情報をすべて捨てた。同時に、作業環境もデータベース化した。工作機械やホルダー、刃物、ボルトなど、すべてに認識番号を割り振って、収納場所と関連付けた。通常、過去の加工品の設計図と使用した道具の情報は保存されているが、「どの工具を、どの順番で使ったか」という情報は残されていない。このような作業に関する情報をすべて保存し、データ化した。そして2年半をかけて完成したのが、多品種単品・24時間無人加工の「ヒルトップ・システム」である。今でも改善を繰り返し、今では入社半年の社員でも、ベテラン職人と同じように製品をつくることができる。
社員食堂
仕事や作業の標準化やデータ化によって、人は創造できる時間を得ることができる。機械はプリンタやコピー機と同じで、単なる出力装置である。ヒルトップ・システムとは、人から仕事を奪うのではなく、開発や設計という上流の仕事に集中するためのシステムである。仕事の楽しさは知的作業の中にある。そのためにはルーティン作業と創造作業を区別する必要がある。ルーティン作業は機械に任せ、人は創造的な分野で仕事を楽しみ、自分たちにしかできないことで勝負すればよい。HILLTOPには、仕事の選択において、「儲かるか、儲からないか」よりも、「楽しそうか」「社員のスキルが上がりそうか」を優先してきた。そこに同社の強みがある。
同社の経営者は、ヒルトップ・システムをつくったから、下請けや単純作業から解放されたのではない。「夢工場をつくろう」「白衣を着た働く工場にする」という夢を追い続けてきたからこそ、ヒルトップ・システムが完成したことを強調する。HILLTOPが追いかけているのは「人の成長」である。人を育てるのは、わくわくドキドキの楽しさであって、ルーティン仕事は頭を使わないので楽しくないし人は育たない。会社の存在理由は社員のスキルとモチベーションを上げることである。中小企業は売上では大企業に勝つことはできないが、当社の利益率は20%を超える。当社の取り組みは、利益を追いかけなくとも、人が育てば結果として利益が付いてくることを教えてくれる。
磯辺 剛彦 | 教員一覧 | 名商大ビジネススクール - 国際認証MBA
名商大ビジネススクール - 国際認証MBA
https://mba.nucba.ac.jp/faculty/isobe_takehiko.html![]()