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事業承継における リーダーシップと経営の意志決定(1) / Leadership in Business Succession and Management Decision-Making (1)

吉川さん × 高木教授
大阪にある老舗プラスチックメーカーを経営している吉川拓哉さんはNUCBの卒業生。髙木晴夫教授はNUCBでの教え子と恩師の関係です。この対談では、事業承継におけるリーダーシップとは?をテーマにして、オーナー企業の経営陣として家族経営の良さと難しさを実感している吉川さんが、NUCBでの学びをもとにどんなリーダーシップを発揮しているのかについてお聞きしました。吉川さんが実践しているのは、社員と1対1になってとことん話す時間をとること。それによってファミリー企業の経営が好転した事業実験について、髙木教授が分析しました。

NUCB alumnus Takuya Yoshikawa runs an established plastic manufacturing company in Osaka. As a former student, Professor Haruo Takagi is a mentor for Mr. Yoshikawa. In their discussion, they explored the essence of leadership in business succession. As a member of the management team in a family business, Mr. Yoshikawa shared his perspective on the advantages and challenges of running a family business and, drawing from his studies at NUCB, he provided insights into the type of leadership he embodies. One of the practices which Mr. Yoshikawa prioritizes is securing the time to engage in one-on-one conversations with his employees. Professor Takagi assessed that this approach was the key to his success in enhancing the management of the family business.

家業である老舗プラスチックメーカーの吉川化成に入社後、名古屋商科大学ビジネススクールで経営学を学び、在学中の学びをベースに独自のメソッドで社内体制の改革に成功した吉川拓哉さん。
「オーナー企業におけるリーダーの役割とは?」というテーマのもと、恩師である髙木晴夫教授と、対談をしました。

技術者をまとめるリーダーとして実践していることとは

髙木:吉川さんとはお会いするのが久しぶりになりますね。オーナー企業の経営陣として活躍されている吉川さんに、オーナー側のリーダーとしてどんな行動をされているのか、経営の意志決定はどのようにされているのか、など、お話を伺えたらと思います。

吉川:私の会社は父から受け継ぎ、現在は長兄が代表を務めておりますので、ファミリービジネスと言う範疇になります。

髙木:創業は75年前と伺いましたが…

吉川:戦後まもないころに私の祖父がプラスチック素材に着目して創業した会社です。祖父の着眼の通り、開発されていく家電製品のほぼすべてにプラスチックが使われるようになり、今では車や医療、住宅などにも需要が及んでいます。今までの歴史の中で築いてきた技術力を尊重しつつ、大きくなった組織をまとめていくのですが、創業者ではなく事業承継者として、パイプ役となり、事業をより強固なものにしていくことが自分に課せられた仕事のひとつだなと感じています。

髙木:吉川さんご自身は技術畑ではないですね?

吉川:はい、私は営業と経営企画を担っております。私の会社は技術力が非常に重要なビジネスの要素となっており、技術者がその主役となります。私自身は技術者ではないですが、技術者をリードしていく立場であるわけです。

髙木:では吉川さんはリーダーとして、技術者の方たちをどうやってまとめていらっしゃるのですか?

吉川:私が実際に行なっているのは、泥臭いと言いますか、愛とか覚悟とか寄り添いとか、そういったことになるかと思います。1日に2〜3時間を使って、社員と話す時間を設けています。もちろん出張などで留守にしていることも多いですが、在社している時はほぼその面談に時間を使っています。1人20分という制限を設けているのですが、その予約が2日くらいで埋まってしまうんです。これはちょっとした自慢です。(笑)徹底して会話をしていくことで、社員が何を考え、どう感じ、これからどうしていくべきかを共に考える良い機会になっています。

髙木:それは面白い取り組みですね。具体的にはどんなことを話すのですか?

吉川:今、あなたが取り組んでいる仕事について自慢してください、と事前に伝えてありまして、それぞれの面談者がペーパーにまとめたものを見ながら、色々な話をします。そのペーパーや社員の顔を見ながら、そこから吉川化成の未来が描けるなと思うことを私からも意見を言わせてもらいます。ですから面談と言っていますが、一方的に聞いているわけでも、こちらから何かを与えているわけでもなく、むしろ私自身が学ばせてもらっているんですね。

髙木:技術者ではない吉川さんが、技術者の考えを知るチャンスでもあるわけですね。

吉川:そうなんです。中には私が初めて知りました!と言うこともあり、それは恥ずかしがらずに(笑)素直に言います。そうすると相手の表情がガラッと変わって、距離が近づいているなと実感することがあるんです。

髙木:それは何年くらい続けている取り組みですか?

吉川:もう3年になります。こうした取り組みは、名古屋商科大学ビジネススクールで学んだことがバックボーンになっていますが、理論の後ろ側にあるものと言いますか、ほわっとしたあたたかいものを大切にしないといけないなと、事業承継する立場の私としては感じています。

髙木:ほわっとしたあたたかいものとは、ビジネスにおける大切にすべき理論と経験と感性の3つの軸のうちの感性にあたることですね。

吉川:名古屋商科大学ビジネススクールでもそれは学びましたが、感性の部分に、社員に対する友情や愛情や寄り添いが含まれているのだな、そして私が大切にしていきたいのは、そうしたあたたかいところなのではないかと自分では理解しました。これは1日や2日でできることではないからこそ、すぐに実践して続けていこうと思って3年が経ちました。

吉川化成の吉川“化族”とは

髙木:名古屋商科大学ビジネススクールの授業で印象に残っているものはありますか?

吉川:一般的に経営理論の授業は、数字とかフレームワークは出てきますが、“人”はあまり出てこない。髙木先生の授業では、たくさんの人が入り込んだ状態での理論を理解しようという極めて実践的な内容でしたから、とても印象に残っています。また、髙木先生の授業で、「個人でいくら頑張っても限界がある。チームで取り組むことでシナジーが生まれる」という言葉が記憶に残っていて、それを授業の中で話し合う場面を設けていただいて、とても実感値が高かったんです。あ、この気づきは自分1人では絶対に生まれてこなかったものだな、と。それで、自分の会社でもチームでその感覚を実感したいと思いました。

髙木:人は繋がって仕事をせざるを得ないですよね。自分と相手がいて、相手も必ず誰かと繋がっていますから。

吉川:私が社員との面談を始めたことで、周りの役員から、ちょっと変なことを始めたぞ、と言われたことがありました。それでも、不思議な業績アップという結果がついてきたので、「対話するってそんな効果が出ることなのか?」という空気が役員の中にも生まれてきまして…。

髙木:化学反応ですね。アメリカではそれを人間たちの化学反応、ケミストリーと言うんですよ。そういえば、吉川さんは社員を“化族”と呼んでいると聞きましたが。

吉川:吉川化成の“化”と、家族の“族”ですね。共に家族のようになって、会社を支えていこう、盛り上げていこうという意味を込めて使っています。

髙木:不思議な利益が出たとおっしゃいましたが、それは“化族”による効果だと思われますか?

吉川:そうですね、化族という言葉や、面談をはじめて少しした頃に手応えを感じました。

髙木:面談された人の向こうに必ず誰かがいますから、吉川さんが面談された人数分以上に、吉川さんとつながっている人がいるという状態が生まれていますね。

吉川:今は、チームを組むことの素晴らしさを知ったという段階に入っています。だからみんなで集まらないといけないね、と。それまでは、海外も含めて経費を使って社員を集めて話し合いしても無駄だよね、という議論で話していたんです。それが、やはり集まることの意味を理解しはじめた。これはもうスタートラインが違いますよね。

髙木:わたしが担当した授業で、一人ひとりが持っている情報量よりも、チームで組んで得た情報量の方が上回り、新しい情報を作ることができる演習があります。教室で実際に学生がチームを組んでやるのですが、本当に情報のプラスアルファが起きるのです。吉川さんはその演習を経験されていますね。そこからヒントを得て、ほぼ同じことを社内の技術系の社員を集めてゲームのようにして実践されているとうかがいました。

吉川:それをさらに数字として見える形に残していくことで、どれくらい素晴らしい結果になるかがわかってきているところです。数字で驚くほど伸びていることがわかると、社員たちも喜んでいます。

髙木:技術系の方は、ものづくりの結果だけに捉われがちです。吉川さんがなさっている取り組みは、技術系の社員だけでなさっていますので、実は技術系のチームワークが仕事にとっても企業にとっても重要だとわかってもらえたら、もっと変わっていくでしょうね。

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吉川化成株式会社 常務取締役 吉川 拓哉
Takuya Yoshikawa

2021年、名古屋商科大学ビジネススクール 経営学修士(MBA)修了。2006年、吉川化成入社。東南アジア駐在を経て2013年帰国。経営者として、吉川化成の理念である『総親和』に基づき、社員を“化族”と称し、“化族”に寄り添った「双方向コミュニケーション」を取り入れ、“吉川化族”として、関係会社合わせて売上200億円/年以上の企業に成長させる。YPC株式会社、代表取締役社長。元プロゴルファー。

吉川化成株式会社 常務取締役 吉川拓哉さん

名古屋商科大学ビジネススクール 教授 髙木 晴夫
Haruo Takagi

1973年慶應義塾大学工学部卒業。75年同修士課程修了、78年同博士課程単位取得退学。同84年ハーバード大学経営大学院博士課程修了、経営学博士号(DBA)取得。1978年慶應義塾大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)助手、84年同助教授、94年同教授。法政大学経営大学院イノベーションマネジメント研究科教授を経て、2018年より名古屋商科大学ビジネススクール教授。

髙木晴夫 教授