事業承継における リーダーシップと経営の意志決定(2) / Leadership in Business Succession and Management Decision-Making (2)
大阪にある老舗プラスチックメーカーを経営している吉川拓哉さんはNUCBの卒業生。髙木晴夫教授はNUCBでの教え子と恩師の関係です。この対談では、事業承継におけるリーダーシップとは?をテーマにして、オーナー企業の経営陣として家族経営の良さと難しさを実感している吉川さんが、NUCBでの学びをもとにどんなリーダーシップを発揮しているのかについてお聞きしました。吉川さんが実践しているのは、社員と1対1になってとことん話す時間をとること。それによってファミリー企業の経営が好転した事業実験について、髙木教授が分析しました。
NUCB alumnus Takuya Yoshikawa runs an established plastic manufacturing company in Osaka. As a former student, Professor Haruo Takagi is a mentor for Mr. Yoshikawa. In their discussion, they explored the essence of leadership in business succession. As a member of the management team in a family business, Mr. Yoshikawa shared his perspective on the advantages and challenges of running a family business and, drawing from his studies at NUCB, he provided insights into the type of leadership he embodies. One of the practices which Mr. Yoshikawa prioritizes is securing the time to engage in one-on-one conversations with his employees. Professor Takagi assessed that this approach was the key to his success in enhancing the management of the family business.
Continued from "事業承継における リーダーシップと経営の意志決定(1)"
家族経営企業の意思決定
髙木:経営層の中のリーダーの役割分担という意味では、どのようにお考えですか?
吉川:現在は、父が社長で、兄が専務、私がナンバー3というポジションです。方針や意思決定をするのは父と兄で、それに基づいて現場とのパイプ役が私の仕事です。ですから、いちばん泥臭い部分を引き受けているということになります。
髙木:一般的には社長がリーダーだと思われがちなのですが、実際の企業上層部でリーダー格を発揮する人は1人ではないんですね。普段は現場の主だった人が意思決定をする。そうした幹部同士の調整がうまくいったりいかなかったりする。
吉川:そういう場面は何度かありました。その時の重要な役割は私だと思っています。吉川家の吉川であるというプライドをもとに、何か問題が起きた時は必ず責任を持つから信じてやってくれ、とお願いする。
髙木:なるほど!
吉川:吉川家に生まれて大変でしょう?と言われることもあるのですが、実は私は吉川家の吉川を活用しているんですよ、とお答えしています(笑)。
髙木:家族経営の企業には、家族側のリーダーと、家族側ではないリーダーがいらっしゃると思いますが、吉川化成さんの場合はどうなのでしょうか?
吉川:家族の範疇に入る取締役だけで構成されています。
髙木:経営における意思決定という意味では、それはやりやすい環境ですね。しかしながら、家族じゃない社員の方が圧倒的に数は多い。社長が社員の愚痴を言うと、それは社員が家族ではないから、という言葉に置き換わって聞こえてしまうんです。もちろん社長はそんなつもりではしゃべっていないのですが、社員にとってはそう聞こえてしまう。ここは家族経営の難しいところだと思います。
吉川:名古屋商科大学ビジネススクールにも家族経営の企業の方が学んでいましたね。
髙木:そうなんです。教材として家族経営ではない一般企業のケースを扱うことが多いのですが、家族経営企業の方の頭の中は、自分の会社と重ねて考えているので、家族経営のケーススタディとして授業を受けているんですね。
吉川:なるほど。取締役の構成にもよりますが、家族経営企業における意思決定は、非常にやりやすい、というのは一般的にあるんですね。私も実感値としては感じています。これからも名古屋商科大学ビジネススクールでの学びを生かして、家族経営の企業の可能性を高めていきたいと思っています。
髙木:また機会を見つけてぜひお話しましょう。今日はありがとうございました。
One final question about AI technology
髙木:AI技術は企業リーダーにどんな影響を及ぼすと思いますか?
吉川:私が大切にしている“人と話すというリアリティ”が真骨頂である、と思っていますので、そことは対極にあるのがAIではあります。まだまだ勉強が足りていない分野ではありますが、AIが人を幸せにしてくれる技術として活用するには、使う側の人間がきちんと理解し、学ばないといけないのかなと思っております。
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吉川化成株式会社 常務取締役 吉川 拓哉
Takuya Yoshikawa
2021年、名古屋商科大学ビジネススクール 経営学修士(MBA)修了。2006年、吉川化成入社。東南アジア駐在を経て2013年帰国。経営者として、吉川化成の理念である『総親和』に基づき、社員を“化族”と称し、“化族”に寄り添った「双方向コミュニケーション」を取り入れ、“吉川化族”として、関係会社合わせて売上200億円/年以上の企業に成長させる。YPC株式会社、代表取締役社長。元プロゴルファー。
名古屋商科大学ビジネススクール 教授 髙木 晴夫
Haruo Takagi
1973年慶應義塾大学工学部卒業。75年同修士課程修了、78年同博士課程単位取得退学。同84年ハーバード大学経営大学院博士課程修了、経営学博士号(DBA)取得。1978年慶應義塾大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)助手、84年同助教授、94年同教授。法政大学経営大学院イノベーションマネジメント研究科教授を経て、2018年より名古屋商科大学ビジネススクール教授。