チームが有機的につながって 力を発揮することの意味(1)
50有余年の歴史を持つ技術者集団であるアルプス技研では、高い技術を持ったエンジニアを取引先に派遣しています。人と人のつながりと、高い技術を持った技術者を育成し、プロジェクトごとに取引先に派遣をするという特徴のある経営で、経営の安定基盤を作ってきました。有機的にチームがつながって、力を発揮することが大切であるという考え方を、本学でも学びましたが、アルプス技研の社長としてのモットーとしていた“チームアルプス”の考え方と共通したものであるということに気づくことができ、その後の社内の統合力づくりに大いに役立てることができました。仲間との議論や印象的な教材によって考え方を整理するなど、本学での学びは貴重な時間でした。
At Alps Giken, we have been dispatching highly skilled engineers to client companies for over 50 years. Our legacy is rooted in a strong management philosophy that values both human connections and the cultivation of technically proficient professionals, who are assigned to projects on a case-by-case basis to provide technical services.
The importance of organically connected teams—essential for unlocking true potential—is a concept I first encountered at NUCB Business School. I soon realized how closely this idea aligned with the “Team Alps” vision I embraced as president of Alps Giken. Applying the core values I gained in the classroom played a vital role in strengthening unity and collaboration within the company.
My time at NUCB Business School was truly invaluable. The rich discussions with peers and impactful course materials helped me sharpen my thinking and refine my approach to leadership and organizational development.
一般的な労働者派遣とは一線を画し、高い技術力を持ったスペシャリストを、その都度のニーズに合わせて派遣し、プロジェクトを成功に導くスタイルの技術者派遣をおこなっているアルプス技研。
本学の卒業生でもある今村篤さんが2025年3月まで10年間に渡って代表取締役社長を務められました。本学の髙木晴夫教授が、今村さんをお迎えし、実際の経営で、どんなリーダーシップで会社をまとめていったのかについて、対談をおこないました。
技術者の派遣業 その特性とは?
髙木:今村さん、お久しぶりですが、お元気ですか?2025年3月に優秀なご成績を残されてのご卒業、おめでとうございました。
今村:髙木先生、ご無沙汰しております。非常に忙しくはありましたが有意義な週末の学生生活を終えまして、3月に無事に修了いたしました。髙木先生には本当にお世話になりました。
髙木:今日は修了生として、実際の企業でのリーダーシップをどのように果たされてきたか、いろいろな側面からお話をうかがいたいと思いますのでよろしくお願いいたします。早速ですが、今村さんはアルプス技研で技術者派遣事業をなさっていると聞いております。一般的に派遣というと、事務職や作業員の方が多いのではないかと思いますが、技術者派遣というのはどのようなビジネスなのか、教えていただけますか?
今村:アルプス技研は1968年に創業した会社です。当時、派遣業はまだ世の中に存在しておらず、もちろん派遣法も定められていない時代でした。創業時は機械・電気の請負設計の会社で、人材を社内教育で育て自分たちが設計したものを納めるという形でした。それが、やがてお客様に技術力が認められ「隣で設計の仕事をして欲しい」と言われる様になり、技術を提供するサービスとして、取引先に技術者を派遣するというスタイルに変わっていきました。
髙木:自分たちで技術者を育てて、高い技術力を持った人を取引先に派遣する、ということですね。それには人材にまず教育という投資をする必要がありますね。
今村:まさにその通りです。正社員として雇用して、教育して、高い技術を持った人材として取引先に行ってもらい技術サービスを提供しています。
髙木:一般的な労働者派遣とはまったく違うビジネスだと言えますね。
今村:そうですね。正社員ですから昇給も昇格も、もちろん社会保険も賞与も有給休暇もあります。普通の企業と同じです。たまたま仕事をしている場所が取引先である、ということです。
髙木:さらに特徴といえば、どんな点がありますか?
今村:当社では、チームで派遣するということが一番の特徴でしょうか。
髙木:何人かのチームで行くということですか?
今村:色々なケースがありますが、大体、3人から10人くらいの単位です。
髙木:お客様にとって、アルプス技研さんから技術者を派遣されるメリットとしては、プロジェクト単位で技術者チームを派遣してもらえるということでしょうか?
今村:これも色々なケースがあります。プロジェクト単位で技術者が動くことがあれば、ある技術者のスキルが非常に高いので引き続き残ってもらって別のプロジェクトにも携わってほしいと要望を受けることもあります。
髙木:アルプス技研さんのそうしたオリジナリティと高い技術力のある社員がいらっしゃることが、なによりの強みであり特徴と言えますね。
今村:はい、その通りだと思っております。実は私も新入社員の時から14年間は、技術者として実際に取引先で設計開発業務を行っておりました。その後、技術者教育や、営業現場を担当する立場となった経緯があります。
髙木:現場を知っている技術者が経営陣にいるということもアルプス技研の強みと言えますね。
特徴あるビジネスでチーム力を発揮すること
髙木:お話をうかがっておりますと、アルプス技研の社内では、先輩が後輩を育てるという文化が根付いているという印象を受けますね。
今村:そうです。技術者集団ということもありまして、そうした企業文化があると思います。当社の経営理念は「Heart to Heart」です。人と人との心のつながりは相手への真の思いやりの心であり真実には必ず厳しさがある。という意味が込められております。仲間を育てる意識、ともに成長していくことに積極的に取り組む風土があります。
髙木:今村さんご自身は社長に就任されて10年、どんなことをビジョンとして掲げられたのですか?
今村:経営理念である「Heart to Heart」をベースに、“チームアルプス”をビジョンとして掲げてきました。個の力をチームの力として発揮できる組織づくりをめざしました。技術者としてだけでなく、人間としても立派に育てていくという組織風土をしっかりと継承して行きたいと思ったからです。
髙木:具体的にはどのようなことを実践されたのですか?
今村:社員が一丸となって会社を強くしていくために結束し、お客様により良い価値を提供することを目標としました。社長になってからは、課長・部長時代に取り組み構築した人的ネットワークを活用してチームアルプスで「高成長・高業績・高処遇」を実現する為に新生技術連絡会議と言う社員自らが、会社を成長させる為の施策を企画、立案、実行するプロジェクトを再度立ち上げました。
髙木:技術者のキャリアアップについてはどのようにお考えですか?
今村:技術者にとっても、色々な会社で経験を積み、スキル(価値)を上げていくことができることは、キャリアアップにつながると思います。このキャリアアップを支援するシステムも構築しました。
髙木:それは、どのようなシステムですか?
今村:技術者一人ひとりの技術力や、経験を棚卸し、キャリアアッププランを立てるシステムです。エンジニアサポートシステムといいまして、技術者の育成支援が目的です。全5000人超の技術者の知識と経験をデータベース化しました。さらにキャリアサポーターという先輩社員が全員についています。技術者がこんな仕事をしてみたいという希望をそのデータベースに登録しておくと、営業マンがその希望に沿った仕事を探してくることが可能になります。こうして社員のキャリアアップがエンゲージメントにつながり、会社とともに自分も成長していくというサイクルを作り出すことができます。
髙木:今村さんの会社の場合の商品は、技術力、そして人材に対しての考え方や教育を含めた知財だと言えるでしょうね。トップリーダーとして、社員が働く現場を常に意識していらっしゃるのだろうと思うのですが、そこは現場を知っている経営者の強みなのでしょうね。
今村:そうですね。まさに現場を知っている人間として、こうだったらいいな、ということをよく社員には話していました。よく使ったのが、逆さピラミッド(逆三角形)の図です。一番上の面積が大きい部分は顧客、そこから下部に向かって、現場のアルプスエンジニア、営業マン、事業部長、取締役、そして一番下の面積が小さい部分が社長の私。この図式の中を複雑に機能や役割が交錯しています。
髙木:それは本学での学びも関係していますか?
今村:はい、その通りです。私が描いた逆ピラミッドを本学で経営学として体系的に理解することが出来ました。さらに、それが役割としての縦ラインだけでなく、有機的に横が繋がることで、チームアルプスの社員がニーズやトレンドを理解して、戦略にする創発戦略である、ということを学び、実践することができました。
髙木:それは良かった、嬉しいですね。
今村:このことについては、特定課題研究の“Case Writing”にも書きました。
髙木:本学の学生にも、ぜひ読んでもらいたいと思います。
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株式会社アルプス技研 取締役相談役 今村 篤
Atsushi Imamura
2025年、名古屋商科大学ビジネススクール 経営学修士(EMBA)修了。1990年、アルプス技研に新卒として入社。技術者として電気・電子の設計開発をした後、教育・営業等を経験、現場経験を活かした仕組みづくりで会社を牽引。2015年、代表取締役社長に就任。全社員が一丸となり、高度な技術サービスを提供することを目標とする『チームアルプス』を提唱。連結売上500億円/年規模の企業に成長させた。神奈川ニュービジネス協議会会長、日本ニュービジネス協議会連合会理事、横浜イノベーション研究会副会長(発起人)。2025年4月より現職。
株式会社アルプス技研 取締役相談役 今村 篤さん
名古屋商科大学ビジネススクール教授 髙木 晴夫
Haruo Takagi
1973年慶應義塾大学工学部卒業。75年同修士課程修了、78年同博士課程単位取得退学。同84年ハーバード大学経営大学院博士課程修了、経営学博士号(DBA)取得。1978年慶應義塾大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)助手、84年同助教授、94年同教授。法政大学経営大学院イノベーションマネジメント研究科教授を経て、2018年より名古屋商科大学ビジネススクール教授。
髙木晴夫 教授