国境の概念を超えた強いリーダーシップとは? (1)
キヤノンで日本の製造業の基礎を学び、その後、アメリカIT系のスタートアップ企業、留学などを経て、武田薬品へ転職。世界中で要職に就き、経営者としてのキャリアアップを重ね、さらに同業他社であるアストラゼネカの日本法人社長と華々しいキャリアを持つ堀井さん。
情報収集や関係づくりなどに注力しながら、一社員にとどまらず、常にリーダーとしての強いメッセージを示すことで、世界中の国々での経営者として実績を積んできた。患者さんの命を預かる医療提供の立場で、誠実であろうとする考えを根底に持ちながら、社会のために貢献できるリーディングカンパニーを牽引している
After learning the foundations of Japanese manufacturing at Canon, Mr. Horii gained diverse experience at a US-based IT startup and through study abroad before joining Takeda Pharmaceutical Company. He has since held key positions around the world, culminating in his position as President of AstraZeneca’s Japan subsidiary and building a distinguished executive career.
While emphasizing information gathering and relationship building, he has consistently gone beyond the role of an individual contributor, delivering clear and impactful messages as a leader across multiple countries. Grounded in a strong commitment to integrity in healthcare, where patients’ lives are at stake, he leads a top-tier company dedicated to contributing to society.
世界を舞台に企業経営の立場で、あまたの要職を経験してきた堀井貴史さん。2022年からの4年間は、アストラゼネカの代表取締役社長として医療と治療環境の改善に力を尽くし、4月からは同社のシニアアドバイザーとして
新たなリーダーシップを発揮されています。常にグローバルな視点を持ちながら製薬企業の経営にあたる堀井さん。次世代に求められるビジネスリーダーをテーマに、岩澤誠一郎研究科長との対談が実施されました。
優れたリーダーのキャリアと思考とは?
岩澤:堀井さんは日本人経営者という感じがなく、国籍や国境を超えてグローバルな視点と強い意思決定力を持つ優れた企業経営者、という印象を持っています。堀井さんのような優れたリーダーが、どんなキャリアを積み、どんな思考で世界を渡って来られたのか、ぜひ教えていただきたいと思います。
堀井:過分なお言葉、恐縮です。まず、大学時代に遡ります。2年の夏、同志社創立者の新島襄も学んだ全米トップクラスのリベラルアーツ校・アマースト大学へ留学したことが、キャリアの転換点となりました。まずは英語力不足で現地の学生と徹底した議論ができなかったことに悔しい思いをしたのと、日本を外から見る体験を通じて、日本が世界からどのように見られているのかという視点の大切さを感じました。その経験が後のMBA留学にもつながっていきました。
岩澤:同志社大学では法学部法律学科でいらっしゃいましたよね。そして就職先はキャノン。
堀井:そうですね、司法試験を受けるつもりでしたが、アマースト大学留学後に、大きく考えを変えました。当時は日本の製造業のブランドが世界を席巻していた時代で、ここに入社して「日本人として世界を舞台に働きたい」と、思いました。キヤノンで日本のものづくりの強さと、信頼関係の中で誠実に仕事を積み重ねていくことを学びました。ビジネスパーソンとしての土台をつくってもらえたと感謝しています。“すり合わせ”で丁寧にものづくりをしていく日本の良さを実感値として経験できたことは大きいものでした。
岩澤:具体的にはどのようなお仕事をされていたのですか?
堀井:デジタルカメラを担当していました。高価な電子部品だけでなく、10銭や20銭といった安価な部品であっても、一つ欠ければ生産ラインは止まってしまいます。小さな部品ひとつにも目を配って、クオリティをきちんと管理し、製造を誠実に進めていくということの原点を学びました。
岩澤:現場で実感とともに経験し学んだ、それが後の経営者としての基礎になっているということに強い印象を持ちます。経営に近い仕事を志すようになられたのはいつごろからですか?
堀井:はじめて社会人として仕事をした会社ということもあり、“就職”ではなく“就社”だったな、と今振り返って思います。大学3年生時に卒業単位をすべて取得していたので、4年生時には単位のことを考えずに、シンプルに好きとか興味があるという理由だけで授業を選びました。当時日本コカ・コーラの幹部だった魚谷さんをはじめ、実際の企業経営者が授業をしてくださっており、4年次には経営に興味が向いていました。
岩澤:そうだったのですね。そしてキャノンの後、IT系のスタートアップ企業に移られた。
堀井:働きはじめより経営に興味を持ち、週末に経営大学院で学んでいた26歳の時、米IT企業の日本法人立ち上げメンバーに誘われました。当時アメリカではインターネットを駆使した調達変革ビジネスが急成長しており、日本企業が出遅れる中、ナスダック上場企業が東京オフィスを開設するタイミングでの入社でした。
岩澤:全部自分でやらなければいけない、そんな経験ですね。留学されたのは、その会社の後ですか?
堀井:外資系企業での勤務を経て、グローバルに通用する経営者を目指す上で、経営の基礎を体系的に英語で学ぶ必要性を痛感しました。世界中の学生と共に、ケースメソッドで議論を通じて学びたい、もっとグローバルな感性を磨きたいと思い、2007年にダーデン経営大学院に留学しました。
岩澤:留学の後は、医療分野に進まれましたよね。留学中に何かきっかけがあったのでしょうか?
堀井:MBA留学中の外資系投資銀行でのサマーインターン経験が大きいです。当時、自動車は世界での強さを維持する一方、消費財や飲料、化粧品、医薬品などは国内で一流でも海外ブランドとしては弱い状況でした。人口減少が進む日本市場のみでは将来の成長は描けず、自ら海外へ出ていく成長戦略が不可欠だと実体験から痛感しました。
岩澤:投資銀行でマクロの動きを体感されたのですね。一方で個人的な、自分のやりたい仕事を考えるということはありましたか?
堀井:個人的なことですが、留学直前に祖父を亡くしますが、彼は若いころ難病で病院の先生方にとてもお世話になり命を救われました。それを契機に将来ライフサイエンスの発展に寄与したいという強い想いを持っていたようです。MBA2年目に今後の進路を検討していた時期に、武田薬品との出会いがありました。
岩澤:武田では要職を歴任されました。
堀井:ヘルスケアというはじめての産業に入り、日本の柱となる産業にするために海外(特に新興国)に出ていき、日本の薬を世界の患者さんに届けることを成長戦略の骨子にすえるという思いでした。キヤノンは“就社”でしたが、武田は“就職”だと思います。
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アストラゼネカ株式会社 シニアアドバイザー
Taka Horii & Co. ファウンダー & CEO 堀井 貴史
Takafumi Horii
2000年同志社大学法学部を卒業後、キヤノンに入社。米国IT系新興企業の日本法人、バージニア大学ダーデン経営大学院MBA修了を経て、2009年には武田薬品工業に入社。中国の戦略企画部長、新興国市場の戦略担当副社長、日本のオンコロジー事業部長、台湾法人の社長、中近東・アフリカの地域統括責任者など世界各国で要職を務め、2022年に日本法人アストラゼネカの代表取締役社長に就任。2026年3月末で退任し、現在はシニア・アドバイザーを務める。製造業・IT・ライフサイエンスをまたぎ、日系・外資系(欧州・米系)の両方で経営経験を持つユニークな日本人。また、2009年のNPO JUKE共同創業以来、15年以上・1,000名超の若者のキャリア形成に関わりPay Forwardを実践してきた。現在は、医療の未来・グローバル戦略支援・経営幹部コーチング・次世代リーダー育成の領域で、新たな挑戦をはじめている。
アストラゼネカ株式会社 シニアアドバイザー Taka Horii & Co. ファウンダー & CEO 堀井 貴史さん
名古屋商科大学ビジネススクール研究科長 岩澤 誠一郎
Seiichiro Iwasawa
1987年野村総合研究所入社、証券アナリスト業務に従事。2006年から野村証券でチーフ・ストラテジストとして内外の株式を中心に市場を分析。10年にマネージング・ディレクター。12年から名古屋商科大学大学院教授。21年から大和アセットマネジメント学術アドバイザー。22年に名古屋商科大学大学院研究科長に就任。専門は金融経済学・行動経済学。International Review of Economics and Finance誌などに論文を発表。著書に『ケースメソッドMBA実況中継04行動経済学』。米ハーバード大学博士(経済学)。
研究科長 岩澤誠一郎 教授