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国境の概念を超えた強いリーダーシップとは? (2)

堀井さん × 岩澤教授
キヤノンで日本の製造業の基礎を学び、その後、アメリカIT系のスタートアップ企業、留学などを経て、武田薬品へ転職。世界中で要職に就き、経営者としてのキャリアアップを重ね、さらに同業他社であるアストラゼネカの日本法人社長と華々しいキャリアを持つ堀井さん。
情報収集や関係づくりなどに注力しながら、一社員にとどまらず、常にリーダーとしての強いメッセージを示すことで、世界中の国々での経営者として実績を積んできた。患者さんの命を預かる医療提供の立場で、誠実であろうとする考えを根底に持ちながら、社会のために貢献できるリーディングカンパニーを牽引している

After learning the foundations of Japanese manufacturing at Canon, Mr. Horii gained diverse experience at a US-based IT startup and through study abroad before joining Takeda Pharmaceutical Company. He has since held key positions around the world, culminating in his position as President of AstraZeneca’s Japan subsidiary and building a distinguished executive career.
While emphasizing information gathering and relationship building, he has consistently gone beyond the role of an individual contributor, delivering clear and impactful messages as a leader across multiple countries. Grounded in a strong commitment to integrity in healthcare, where patients’ lives are at stake, he leads a top-tier company dedicated to contributing to society.

Continued from "国境の概念を超えた強いリーダーシップとは? (1)"

同業他社からのヘッドハンティング

岩澤:武田薬品では中国、スイス、シンガポール、台湾でご活躍されていますが、堀井さんは駐在員ではなく現地法人の社員として行ったと聞きましたが…。

堀井:中国・上海は駐在として行きましたが、次のスイスからは現地法人と契約しました。なぜなら、武田をグローバル企業にするために日本の社員だけが駐在という特別な立場で行けば、たとえ結果が出なくても日本に戻る場所があると現地のスタッフに思われます。それではマインドセットとメンタリティがグローバルではない、と感じました。

岩澤:なるほど、それでシンガポールでは、現地契約で戦略担当副社長に就任し、新興国事業を統括する新会社を立ち上げられたのですね。その後のキャリアはどのようにお進みになったのでしょうか。

堀井:2016年、39歳の時に台湾法人の社長に就任しました。その後、シャイヤー社買収後の統合(PMI)を機にドバイへ移り、中近東・アフリカ地域代表を務め、2年ほどは飛行機に乗ってばかりの生活でした(笑)。その後、日本に戻り、がんビジネスをリードするオンコロジー事業の責任者に就任しました。

岩澤:本当にグローバルな仕事だったわけですが、大変でしたか?

堀井:大変なことしかなかったです(笑)。宗教や文化などの圧倒的な多様性は、言語はもちろん食べるものから神様まで、すべて自分の人生とは違うものばかりでしたから。

岩澤:そんなご経験をされた堀井さんを、アストラゼネカが日本法人の社長として迎えられた。グローバル企業では内部登用も多いなか、同業他社から社長として迎えられたというのは、ご経験が高く評価されたということですね。

堀井:武田薬品には14年間在籍し、当初掲げた「武田薬品のグローバル化」という目標が一段落するレベルまでたどり着いたと感じていました。アストラゼネカも武田と同じ時期に大きな変革をはじめており、製品ポートフォリオ改革とパイプライン構築に注力しているのを、興味を持ってみていました。コロナを経験し、価値観・優先順位等様々なものが変わるタイミングでした。

岩澤:アストラゼネカでも大変な成果を上げられましたね。

堀井:30件を超える新薬と新規適応症の承認取得を実現し、就任時第3位であった国内製薬企業における売上ランキングにおいても2024年中に第1位(販促会社レベル/薬価ベース)※を達成しました。また、従業員エンゲージメントは、全27項目中24項目で5ポイント以上の大幅改善、イノベーションに積極的な製薬企業ランキングや医療従事者からの評価でも業界トップに選ばれました。短期間でここに至った従業員(仲間)には心から敬意と感謝を持っています。 ※Copyright © 2026 IQVIA. AstraZeneca Calculated based on IQVIA JPM Jul 2022, Apr May Jun 2024. Reprinted with permission

岩澤:成果を出すために何をどうしたのか。いろいろあると思いますが一つ挙げるとどんなことでしょうか?

堀井:ビジョンを示すことはとても大事だと思います。アストラゼネカでは『イノベーションで患者さんの人生を変えるNO. 1 パイオニア』というビジョンを掲げました。ただ、薬を届けるだけでなく、日本の医療課題に対して産官学連携を含めた様々なステークホルダーとの協働を通じ、健康寿命の延伸を目指す、という強い意志を示しています。新しい薬が出てくると、標準治療を変えなければいけないので、本当に大変なのです。でもそこを医療従事者や関連ステークホルダーと一緒になって取り組むことで、患者さんに人生を変えるような医薬品を届けられることをイメージします。前例のないことにチャレンジして、業界の常識を変えていきたいと今も思っています。

経営におけるミッションの大切さ

岩澤:本校は、MBAを取得し、企業のリーダーとして活躍することを目標とする人が多いのですが、彼ら、彼女らにアドバイスをいただけたらと思います。

堀井:こうして取材や対談をさせていただくことで、過去を振り返り、大切にしてきた価値観を言語化することができたのはありがたいと思っています。過去を考えてわかったことは、やはり自分の軸を持つということが大切だと思います。MBAをめざしておられる方には、失敗は必ずするので、少しでも早く挑戦するといい、とお伝えしたい。小さくていいので、早いタイミングで挑戦し、全体を俯瞰して意思決定をしていかれるべき。私は39歳に台湾ではじめて社長になりましたが、社長になった瞬間に、景色は変わります。それまで仕事はできていると思っていたのに、視点が変われば違っていた、ということもありました。

岩澤:「軸」が大事ということですが、堀井さんの、経営者としての「軸」についてはどうお考えですか?

堀井:ミッションというのはやはりとても重要で、軸となる言葉も必要です。私は、Pay forwardという言葉をいつも使っています。次に伝えていく、という意味です。いろいろな人にお世話になった恩があるから今の自分がいる。その恩はいただいた人に返すのではなく、次の人に伝えることで、社会に恩返しをすることになります。私のビジネスにおける判断基準にしています。また、アストラゼネカは『人・社会・地球の健康をサイエンスの力でお届けする』というミッションを掲げています。社員がそのミッションに愛着を持ち、心に刻むことで、同じ方向を向くことができます。

岩澤:心に響くミッション、そして軸となる言葉ですね。常に中長期的に先を見据えて経営を語る、優れたリーダーシップのお話を聞くことができました。ありがとうございました。

another question about AI technology

堀井:医療でのAI展開には非常に期待しています。現在は分断されているアナログ情報が個人レベルで統合されれば、少ないリソースで最適な医療提供が可能になります。法規制を変えるハードルは高いものの、人々の健康寿命を延ばす上で、製薬会社にとってAIの加速は大きなチャンスだと考えています。

アストラゼネカ株式会社 シニアアドバイザー
Taka Horii & Co. ファウンダー & CEO 堀井 貴史
Takafumi Horii

2000年同志社大学法学部を卒業後、キヤノンに入社。米国IT系新興企業の日本法人、バージニア大学ダーデン経営大学院MBA修了を経て、2009年には武田薬品工業に入社。中国の戦略企画部長、新興国市場の戦略担当副社長、日本のオンコロジー事業部長、台湾法人の社長、中近東・アフリカの地域統括責任者など世界各国で要職を務め、2022年に日本法人アストラゼネカの代表取締役社長に就任。2026年3月末で退任し、現在はシニア・アドバイザーを務める。製造業・IT・ライフサイエンスをまたぎ、日系・外資系(欧州・米系)の両方で経営経験を持つユニークな日本人。また、2009年のNPO JUKE共同創業以来、15年以上・1,000名超の若者のキャリア形成に関わりPay Forwardを実践してきた。現在は、医療の未来・グローバル戦略支援・経営幹部コーチング・次世代リーダー育成の領域で、新たな挑戦をはじめている。

アストラゼネカ株式会社 シニアアドバイザー Taka Horii & Co. ファウンダー & CEO 堀井 貴史さん

名古屋商科大学ビジネススクール研究科長 岩澤 誠一郎
Seiichiro Iwasawa

1987年野村総合研究所入社、証券アナリスト業務に従事。2006年から野村証券でチーフ・ストラテジストとして内外の株式を中心に市場を分析。10年にマネージング・ディレクター。12年から名古屋商科大学大学院教授。21年から大和アセットマネジメント学術アドバイザー。22年に名古屋商科大学大学院研究科長に就任。専門は金融経済学・行動経済学。International Review of Economics and Finance誌などに論文を発表。著書に『ケースメソッドMBA実況中継04行動経済学』。米ハーバード大学博士(経済学)。

研究科長 岩澤誠一郎 教授