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鳥取県で水揚げされるアジから 新たな価値を創造し、地域社会に貢献する(1)

角谷さん × 髙木教授
鳥取県境港市でアジフライカンパニーというテーマで地域貢献とアジフライのブランディングに取り組む角谷食品。なぜアジフライで価値創造を目指すのか、それをスタッフにも地域社会にもきちんと言葉を届けることで、地域で仕事をする意味、地域を大切にする考えを深めていこうと角谷さんは取り組んでいます。もともと自然科学の世界で研究者として生きていた角谷さんは本学で経営を学んだことで、企業経営・自然科学・地域貢献というキーワードをもとにした独自の経営理論を展開することに成功。本学でも教鞭に立っています。またAIの活用にも積極的で、これからの企業経営にAIは不可欠であり、AIの脆弱性を理解した上で、積極的に活用していくべきだと考えています。

Kadotani Foods, headquartered in Sakaiminato City, Tottori Prefecture, is advancing regional revitalization and brand development under the distinctive concept of an “Aji Fry Company,” built around its signature artisanal panko-crusted aji (horse mackerel). This focus on value creation is driven by Mr. Kadotani’s commitment to clearly articulating this vision, not only to his employees but also to the broader local community, so they can better appreciate the value of working in, contributing to, and taking pride in their region.
Originally trained as a natural sciences researcher, Mr. Kadotani later studied management at NUCB Business School, where he developed a distinctive philosophy integrating corporate management, scientific thinking, and regional contribution. He currently serves as a faculty member at our school and actively embraces AI as essential to the future of business management, while emphasizing the importance of understanding its limitations and applying it thoughtfully.

企業研究者の道に進みながらも事業承継を選び、“漁師さんが獲ってきた一匹のアジを最高のアジフライに仕上げる”ことで、経済的価値を生み出す事業に成功したのが、本学の卒業生である角谷直樹さんです。企業経営の傍らで、ファミリービジネス、中小企業経営、企業倫理、道徳哲学、経営哲学の研究も行い、本学の客員講師を務めてくださっています。
今回は、髙木晴夫教授が角谷さんをお迎えし、地方都市における企業経営・事業承継において、どのようなリーダーシップを発揮してきたのか、対談を行いました。

日本から世界に誇るアジフライカンパニーになる

髙木:角谷さん、わざわざこのために来てくださってありがとうございます。今日は境港からですか?

角谷:昨日東京で仕事の用があったので上京しており、明日は大阪で商談があるので、地元を離れている間にお邪魔しました。

髙木:境港から全国を飛び回っておられる忙しいところ、ありがとうございます。早速ですが、角谷さんはどのような経緯で、お父様の会社をお継ぎになられたのでしょうか?

角谷:私は高専を卒業しているのですが、卒業研究の時に出会った先生の影響で、研究の道に進みたいと考えまして、そこから大学に入り、大学院にも進み、農学博士として博士号をとりました。2006年に味の素に入社し、川崎市の研究所で9年勤務しました。

髙木:いわゆる企業での博士研究員ということですね。

角谷:はい、そうです。さらに経営学と自然科学の両方を理解できるようになりたいと考えました。どちらの言語も操ることができる、概念がわかるという人になりたいと思い、2013年に名古屋商科大学のビジネススクールに入学しました。

髙木:では、お父様の会社をお継ぎになられたのは、その後のことですね?

角谷:2006年は私が味の素に入社した年ですが、同年に父が起業した年でもありました。

髙木:お父様は缶詰工場の工場長をされていたとか…?

角谷:そうなんです。父が勤めていた会社が倒産してしまい、57歳で起業することになったわけです。そして2013年、私がビジネススクールに入学した年に、今度は父が悪性リンパ腫に罹患してしまいまして、2015年には私がドナーとして骨髄移植をすることになり、その頃は味の素をやめて地元に帰ろうと考えていました。

髙木:それは本当に大変でしたね。それで急遽お父様の会社をお継ぎになったわけですね。

角谷:その頃の弊社・角屋食品は、少量多品種で水産加工食品を製造する会社で、マイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシ、サバ、赤貝、スルメイカ、ブリ、カニなど、あらゆる魚種を扱っていました。しかし、私が継いで翌年には商品をアジフライに特化することにしました。

髙木:境港はアジが獲れる場所なんですね? なぜそのアジフライ一本化の経営判断をされたのですか?

角谷:知られていないかもしれませんが、実は境港の漁獲高は全国で3位なのです。経営判断の理由は3つありまして、最初の理由は、製品価格に固定費が反映されておらず、原価管理がずさんだったこと。2つ目には、加工するための機械を数多く持っていましたが、食品が変われば機械を組み替える必要があり、その清掃も大変な作業でしたし、とても非効率的で、資産があっても稼働率が極めて低かったこと。そして3つ目には、仕入れを見込みでおこなっており、在庫が冷凍庫にどんどん溜まってロスになっていたことです。

髙木:それは経営としては基礎的なことができていなかった、という判断になりますね。

角谷:でもそれも、ビジネススクールで経営の知識と土台を学んでいたので、意思決定ができました。

髙木:アジフライに特化するという意思決定はどのように決められたのですか?

角谷:角屋食品に入社し営業していく中で、実際にご注文いただけるのもアジフライがダントツでした。また、私自身が純粋に「美味しい!」と思えたことも大きかったです。そしてもうひとつ、角屋食品のPRとして、アジフライカンパニーになるという明確なビジョンを示すことができるからです。

髙木:アジフライは国民食だと言っていいですよね。私も大好きです。

角谷:まさにそこなんです。アジフライを国民食として、スシやテンプラと同じように国際共通語にしていきたい。そのグローバルビジョンを持てる素材だと思ったのです。

髙木:では海外に向けて進出することも考えておられる?

角谷:はい、ジャパニーズ・プレミアム・アジフライとして開拓していきたいと思います。差別化のため、衣は手づけにこだわっていますから。

髙木:アジフライ好きとしては、それは一度食べてみなければいけませんね(笑)。

角谷:ぜひ召し上がっていただきたいです(笑)

地方都市の経営経験をもとにした授業の作り方とは?

髙木:角谷さんは本学で先生として教壇に立っていただいており、先生稼業の難しさを感じておられると思います。時が経つと当然ながら学生のキャリア志向にも変化が生まれますから、今の知識や授業の傾向は5年もすれば昔のものになってしまいます。この点について、実際に教える立場になって実感はありますか?

角谷:講義を受ける立場と教える立場の両方を経験しましたが、知識を知識として話すのではなく、実務とのつながりを持って理論を唱えていくことがやっとできるようになりました。実際に角屋食品では理論をもとにしてこうして意思決定をしていったというような同時代のリアルなエピソードが話せるんですね。今は力を抜いて自然に言葉が出てくるようになったかなと思っています。

髙木:素晴らしい。授業で使われるケースはだんだん古くなっていってしまいますが、今の時代に使いやすいケースをどこで探していますか?

角谷:多くは、地元のニュースや経済ニュース、書籍などをもとに作っています。最近ですと、鳥取県で生協が経営していたスーパーマーケットが倒産したために、限界集落では買い物に困ってしまうという地域課題がありました。県や市はタスクフォースを立ち上げ、市の建物に他県のスーパーを誘致するのですが一年でクローズしてしまいます。私たちの生活を支えているのは営利目的の企業であるとすると、新陳代謝や競争原理だけで企業経営を語っていいのか、といった問いが見えてきます。そして都会ではなく、地方都市でしか、こうした問題が起こってこないのが現実。地方で会社を経営している立場として、挙げることができるケースだと思います。

髙木:なるほど、地域に足をつけて経営している方ならではの視点ですね。本学の学生は、大企業の一員としてよりも生活者としての立場の方が視点が一致するように思います。学生のほとんどが、企業から留学費用を受けて派遣されたのではなく、自費で通っているので、自分のための学びとして懸命に授業を受けています。

角谷:確かに、その世界観の違いは大きいですね。

髙木:角谷さんの場合は、経営者としての真実感があるので、教材づくりにも活かすことができていると思います。

角谷:私たちのミッションは郷土貢献だと思っています。ごはんを食べないと生きていけないけど、ごはんを食べることが目的ではない。お金を稼ぐことは必要だけど目的ではない。そこをきちんと言っていない企業が多いと思うのです。

髙木:地方における経営戦略は都会とは違う、ということですね。

角谷:都会の大企業は、営業利益の最大化と経済合理化を目指す。地方や中小企業では、永続的であることと地域での評判を大切にするという価値観があります。この力学の差は大きいのです。

髙木:地方でのMBA的な理解をしていかなければいけないですね。そこに光をあてるべきであることを教えていただきました。

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株式会社角屋食品 代表取締役 角谷 直樹
Naoki Kadotani

鳥取県境港市生まれ。2005年神戸大学大学院博士課程早期修了。大学勤務を経て、味の素株式会社に入社。2015年名古屋商科大学ビジネススクール早期修了(2014年度成績優良学生、Case Award受賞)。同年、味の素を退職し、角屋食品に入社。翌年より代表取締役。2016年より名古屋商科大学ビジネススクール客員講師(2019・2020・2021・2022・2024・2025年度Teaching Award受賞)。

株式会社角屋食品 代表取締役 角谷 直樹さん

名古屋商科大学ビジネススクール教授 髙木 晴夫
Haruo Takagi

1973年慶應義塾大学工学部卒業。75年同修士課程修了、78年同博士課程単位取得退学。同84年ハーバード大学経営大学院博士課程修了、経営学博士号(DBA)取得。1978年慶應義塾大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)助手、84年同助教授、94年同教授。法政大学経営大学院イノベーションマネジメント研究科教授を経て、2018年より名古屋商科大学ビジネススクール教授。

髙木晴夫 教授