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企業における起業家精神とデザイン

企業における起業家精神とデザイン
澤谷 由里子
名古屋商科大学ビジネススクール 教授

企業において新規事業創出のための手法や思考法として、熟練した起業家から生まれたエフェクチュエーションやデザイナーの思考から生まれたデザイン思考が活用され始めた。しかしながら、エフェクチュエーション理論の企業での活用可能性や、既に導入が進められているデザイン思考との共通点・差異や組み合わせた場合の効果などは、まだ十分に理解されていない。これら二つの領域がどのように連携し、相互に影響を与えるかを理解することは、新しいビジネスの創出や既存のビジネスの変革において重要である。

エフェクチュエーション理論は、Sarasvathyによる起業家の意思決定に関する基礎概念的・実証的研究から導出された。その理論は、不確実性の下で意思決定を行うことができる起業家の論理であるエフェクチュエーションと、予測可能で不確実性の低い文脈で活動するマネジャーの論理であるコーゼーションを区別し、5つの起業家の行動原則(手中の鳥、許容可能な損失、クレイジーキルト、レモネード、機上のパイロット)を提案している。企業における新規事業のイノベーション実践者は、エフェクチュエーションの基本原則に共感しつつも、理論の抽象性に課題を感じている。

デザイン思考は、イノベーション、特に新規事業開発の実践者の間で人気を博しており、その多くは関連性の高いイノベーションアプローチとして推進している。デザイン思考の核心は、問題解決とイノベーションのための人間中心の反復的なアプローチであり、デザイナーが社会と相互作用し、新たな意味合いを実践的に創出する方法とプロセスである。Simonはデザインを人工物を創造する意識的な活動のすべてと捉える。デザイナーが複雑さを整理し、混沌の中に明快さを見出すことで問題を解決し、適切なソリューションを生み出すというアプローチは、デザイン思考が不確実性の高い文脈でのイノベーションに有効であることを示唆している。

起業する個人と環境状況に重点を置いた支配的な二重関係の枠組みを、デザインの視点は、人工物中心のデザインの三要素へと拡張する。この「人―人工物―環境」の共通フレームの上で、不確実性下での起業家の意思決定論理であるエフェクチュエーション理論と、デザイン思考の関連性を吟味することによって両者の理解が深まることが期待される。

Reference

Sawatani, Y. (2022). Effectuation and Design Complementarity Based on Organizational and Aesthetic Judgments. Effectuation Conference 2022, 1–9.