栗本博行先生が先週、「ケースメソッドの方程式」というコラムを書かれましたので、私もそれに続く話を書くことにします。
Harvard Business School(以下、HBS)でのケースメソッド教育の組織的実践宣言日が1922/5/10であるというのは本当のことで、5年前に私もHBS Baker LibraryのHistorical Collections(付属古文書図書館)で、その日の教授会議事録の現物を見てきました。このことを持ち出して、私がこのコラムの読者に伝えたいのは、大学の教授会で「全校レベルでケースメソッド教育を推進する」と決めるなどというのは、「本当に難しいことなのだ」ということです。
HBSは1908年の開校ですので、米国ビジネススクールの中でも最先発集団とは言い難い存在で、同じハーバード大学でロースクールの運営がうまく行っていたことに背中を押されて開校したという一面もあります。であれば、「開校即ケースメソッド教育着手」となりそうな気もするのですが、実際には14年もの長い検討期間を要しました。この間にゲイ(Gay, Edwin F.)とドーナム(Donham, Wallace B.)という二人のディーンがケースメソッド教育の全校展開を粘り強く、そして慎重に進めたことで、1922年になってようやく教授会での合意となったものと考えられます。大学人にとって、ある教育部局の教授法を「ひとつに絞る」というのは、簡単そうに見えて実は「おおごと」なのです。
ビジネスリーダーを、教育手法面での迷いなく、情熱的に育成する
大学教員というと世間では「自由の象徴」のように言われもしますが、そういう人たちが同じ方向を見て、力を合わせたときには非常に大きな力が生じることは想像に難くないでしょう。ビジネススクールの教員にとっても学問の自由は重要ですが、ビジネスリーダーを、教育手法面での迷いなく、情熱的に育成するための求心力を強く生じさせようとするならば、明確な方針を決め、その方針のもとに教員が結束し、力を合わせていくことが、より重要です。その意味では、名古屋商科大学ビジネススクールは、尊敬すべきあのHBSよりもはるかに短期間で、ケースメソッド教育をめぐる教員間の合意形成に成功したと言うことができるでしょう。名古屋商科大学ビジネススクールで学ぶ皆さんには、十分にその恩恵に浴してほしいです。
そして今日は世間ではハナキン。それでも皆さんは、人には伝わりにくい密かな充実感を覚えつつ、明日明後日のケースの予習に夜な夜な励むというわけです。