社長とは?をメインテーマにした講義《起業家と戦略 Entrepreneur and Strategy》を担当しています。MBAを学んだ後の総決算という位置付けの講義です。総決算ですので、教えるというよりも、卒業に当たって考えて欲しいことを筆者の経験を通じて学生に提示して、議論する講義です。同時に筆者がすべての学生に社長になりなさいと後押しというか、けしかけている講義で、大変盛り上がります。
講義ではたくさんの有名経営者のケースが登場します。会社というよりも、個人に焦点を当てた議論をしています。柳井正、井深大、本田宗一郎、稲盛和夫、小倉昌男、孫正義。これらは大物過ぎて学生のロールモデルにちょっと遠いので、名古屋商科大学院の学生で社長をやっている人のケース、もしくは、自分の会社の創業者社長のケースを織り交ぜています。
その中で、共通するテーマは〜会社は誰のために存在しているのか?〜という問いかけです。実は、このテーマは筆者もまだ答えを見つけていません。そして、MBA で一番難解な問いかけだと思っています。この問いに簡単に、スラっと答えられる方は、考えが浅いと断言できます。ですので、筆者自身が答えを見つけたくて、この講義を通じて問い続けています。
会社は誰のもの?
- 会社は株主のもの。これは資本主義として当然の答えです。欧米的な考えです。
- 会社は社長のもの。これも社長は会社の代表ですので自明かもしれませんが、会社を私物化してそれが弊害になっている会社も多いです。
- 会社は従業員のもの。これは極めて日本的な考え方です。世界的に珍しい考え方ですが、日本人的には一番しっくりきますよね。
- 会社は顧客の為に存在する。多くの企業は顧客第1主義を標榜していますので、これも納得できる考え方です。
- 会社は社会の為に存在している。ほとんどの会社の企業理念は、何の為に会社が存在しているかについて書いていますが、100%と言っていいくらい、社会貢献の為です。企業が永続する為にはこの理念が大変貴重であることを、MBAでは学びます。
こうお話ししてくると、どれも正しくて対して難問じゃないじゃんと思われそうです。ですが、社長の立場に立って考えてみてください。いくつか例をお話しします。
(例1)お客さんの仕事で納期が迫り、社員に土日返上で働き体をこわす社員が出てる。社長のあなたなら、社員健康を優先しますか?お客満足度を優先しますか?
(例2)業績が悪い会社で、株主は社員の首を切れ、給与を下げろと言っている。社長のあなたなら、株主に意向を優先しますか?社員の雇用を優先しますか?
(例3)社会貢献で赤字前提で慈善事業をやっているが、それをやればやるほど株価が悪化する。株主が怒り出す。社長のあなたなら、社会貢献を優先しますか?株主を優先しますか?
単純な例ですが、判断に困ると思います。つまり、5つのステークホルダーの利害は常に対立しているということに気付いてください。この利害関係を調整し、すべてのスタークホルダーを満足させる。これは、社長しかできないことで、社長としての最大の仕事でした。もちろん、社長によって優先順位は濃くあります。しかしながら、すべての経営判断は突き詰めるとこの課題にぶち当たります。矛盾することばかりですが、これが社長の仕事の醍醐味ですね。この判断は痺れます。社運が判断にかかっているからです。
今のは一例ですが、社長になれば、人間は成長します。他の仕事をやっているよりも格段に。だから、学生に《社長になって成長しよう》と訴えるこの講義を筆者の総決算の講義にしています。
社長の役割に関して、ヤマト運輸の小倉社長の言葉が社長を目指すMBA学生の励みになります。なぜなら、まさにMBAで学んでいることとドンピシャからです。
この言葉で、この稿を終わります。
「社長の役目は、会社の現状を正しく分析し、何を重点として取り上げなければならないかを選択し、それを論理的に説明すること、つまり戦略的思考をすることに尽きると思う。」