オンラインMBA、通信MBA、遠隔MBA、またブレンドMBAなど新しい種類のMBAが次々と誕生していますが、欧米のビジネススクールでは「オンラインMBA」と呼ばれ、かの有名なQSやFTのMBAランキングにも「オンラインMBA」は独立のカテゴリとして存在しています。インターネットの通信速度や映像圧縮技術の進歩により、双方向ライブの授業が家庭レベルのみならずモバイル環境でも実現されるようになり、この技術をMBA教育でも活用する動きで国内でもオンライン/通信MBAなどの言葉が聞かれるようになってきました。
一方で、教室授業と比較してその実態が見えにくく、教育品質に大きな差が存在するのも現実。以下では、オンライン教育における国際認証の重要性と価値について解説します。
オンラインMBAとは何か?
オンラインMBAの価値
距離的もしくは時間的にビジネススクールに通うことが困難な場合には、オンラインMBAが有力な選択肢となります。しかしながらMBAとは単に知識修得ではなく、企業が抱える課題をどのように「解釈」し、リーダーとしていかに「行動」するか?を参加者同士が議論して経験値を高める場です。したがって教育品質やネットワーキングの観点でオンライン教育に対して懐疑的な見解があるのも事実。企業の採用面接の際でも、どのような手段で学位「MBA」を取得したのか重視されます。したがって、オンラインで学位取得する場合は従来以上に「国際認証」の取得状況を中心に「教育の質保障」について慎重に検討する必要があるのです。
オンラインMBAに関する誤解
大学や大学院といった教育機関はキャンパスと教員に多額の投資を行います。それがもしオンライン教育が中心であれば、極端な解釈を行うと「教室不要」、「研究室不要」、「教員不要」になってきます。当然ながら、オンライン教育は受講生の目には時間コストの観点で魅力的な選択肢として映りやすいので、双方にとって期待が高まります。
オンライン教育の選択基準=国際認証
しかしながら現実は真逆で、オンラインMBAで世界のトップ10を見ると(後述)、米国MBA以外はほぼ全てトリプル認証校という驚異的な比率を示しています。要は、教育研究活動に関して厳格な外部認証を持つ大学が、オンライン教育でも高い評価を得ているのです。要は、オンライン教育を選択する基準は国際認証といっても過言ではないのです。
オンラインMBAの種類
国際認証 | AACSB(米国)・AMBA(英国)・EQUIS(欧州) |
国際ランキング |
QS Online MBA Rankings・FT Online MBA |
教育課程 | Executive MBA・MBA・PreMBA |
授業形態 | 完全遠隔・ブレンド・教室 |
修了年限 | 2年間・1年間 |
認可機関 | 文部科学省(日本)、教育省(英米) |
なぜオンライン教育に認証と認可が欠かせないのか?
「認可」や「免許」とは当該教育を提供するために最低限必要な要件を満たした場合に与えられる公的な資格に対して、「認証」とは一定水準の質的要件を満たした場合に与える「質保障」を指します。したがって、認可と認証は別物であり両方を有することが重要になります。特にオンライン教育は「質保障」が難しいため、国際認証の存在が大きな意味を持ちます。
海外オンラインMBAランキング
オンラインMBAにも独自のランキングが存在し、QSおよびFTともに毎年公開していますので以下にご紹介します。オンラインMBAのトップ3はこの3校であり、従来の対面型MBAの米国優勢な序列(#1 Stanford, #2 Harvard, #3Whartonなど)と大きく異なり、英国ビジネススクールが上位に評価されているのが特徴です。以下は最新のQS Online MBA Rankings 2024となり、ランクインした機関数で上位3か国は、アメリカ合衆国(53機関、全体の52%)、イギリス(13機関、13%)、スペイン(6機関、6%)です。
オンラインMBAの可能性
FTランキングでオンラインMBAと教室MBAを比較すると、教室MBAはトップ100校を序列化するのに対して、オンラインMBAはわずか10校のみです。オンラインでMBAを提供している大学は世界にこの数百倍は存在しているはずですが、FTの基準ではわずか10校のみ。まだ、期待と現実の差が大きい証拠だと考えています。
QS | ビジネススクール | 拠点 | 国際認証 |
1 | Imperial College Business School | UK | AACSB/EQUIS/AMBA |
2 | IE Business School | Spain | AACSB/EQUIS/AMBA |
3 | Warwick Business School | UK | AACSB/EQUIS/AMBA |
4 | AGSM at the UNSW Business School | Australia | AACSB/EQUIS |
5 | Kelley School of Business | US | AACSB |
6 | Alliance Manchester Business School | UK | AACSB/EQUIS/AMBA |
7 | Carnegie Mellon (Tepper) | United States | AACSB |
8 | POLIMI Graduate School of Management | Italy | AACSB/EQUIS/AMBA |
9 | University of North Carolina (Kenan-Flagler) | United States | AACSB |
10 | Southern California (Marshall) | United States | AACSB |
オンラインMBAランキングが重視するポイント
教員と教育の質
このプログラムは高い学術基準を提供しているか?この指標には、QS独自の「QSアカデミックサーベイ」から得られたデータが組み込まれています。このサーベイは、世界中の学術関係者の意見を反映したものであり、参加校が提供したデータや公開情報を基に検証された内容も使用されます。
以下の3つの具体的な項目が評価対象となります。
学術的評価:この指標は、オンラインMBAプログラムの評判を正確に把握するためのものであり、世界中の大学やビジネススクールの推薦に基づいています。学術関係者は、それぞれの専門分野で最も強いと考える機関を挙げます。このサーベイは、規模と範囲の点で世界最大の学術意見調査に成長しており、学術界の意見を測定するための比類のない手段となっています。
フルタイム教員数(FTE)と学生数の比率:比率が高いほど、学生はプログラムの教員からより多くの個別指導を受けられることを期待できます。フルタイム教員数は単に専任・非常勤の名目的な区分ではなく、担当科目数(時間)でウェイト付けされた実質的な教員数となります。例)1科目を担当する10人の教員と、10科目を担当する1人の教員はともにFTE=1となります。
修了率:「修了者/入学者」という極めて簡単な指標を使用して、当該オンラインMBAプログラムが完全に修了する価値があることを示す指標としています。
オンライン教育に対する誤解
現在、世界には200を越えるオンラインMBAが存在しており、MBA取得者の5%がこの手法を利用しています。AACSB、AMBA、およびEQUISなどの国際認証機関もこの動きを察知し、オンラインMBAプログラムを有しているビジネススクールには特別な認証基準を提供しています。要はオンラインを否定しているのではなく、オンライン授業の中でも対面要素の伴わない予め撮影動画を単に配信する遠隔教育に関して慎重な姿勢ということです。
オンライン授業の3類型
- 対面型授業(ライブ型)
- 動画型授業(オンデマンド型)
- 混合型授業(ブレンド型)
誤解を生みやすいのが混合型(ブレンド型あるいはハイブリッド型)です。一般的には遠隔地の参加者に対して従来の教室授業に参加する方法を提示する手法として理解されます。しかしながら、中には参加者を半分に分けて、週ごとに教室参加と遠隔参加を入れ替えるという変わった手法も存在します。
オンラインMBAを選択/実施するにあたって
日本国内にはオンラインのみで学位取得可能な国際認証MBAは存在しません。国際認証および文部科学省ともに基本方針としては教室授業(面接授業)の教育が第一義的に作成されており、オンライン教育に対しては以下のような注意事項が記されています。教室授業であれば当然の要素ばかりですが、オンライン授業であるとそれらが見えにくいのでしょう。
遠隔授業における留意点(文部科学省)
遠隔授業は,同時かつ双方向に行われるものや,毎回の授業の実施に当たって当該授業の終了後すみやかに指導を併せ行うもので,当該授業に関する学生等の意見の交換の機会が確保されているもの等,いわゆる同時性又は即応性を持つ双方向性(対話性)を有し,面接授業に相当する教育効果を有すると認められるものであること。また,遠隔授業等の実施の検討を行う際には,以下の事項にも留意すること。
- 授業担当教員の授業ごとの指導計画の下に実施されていること
- 授業担当教員が,オンライン上での出席管理や確認的な課題の提出等により,当該授業の実施状況を十分把握していること
- 学生一人一人へ確実に情報を伝達する手段や,学生からの相談に速やかに応じる体制が確保されていること
- 大学等として,どの授業科目が遠隔授業等で実施されているか等,個々の授業の実施状況について把握していること
ライブ型ケースメソッド授業(2016)
ケースメソッド教育を生み出したハーバードビジネススクールは、オンラインでいかにその討論型授業を表現するか試行錯誤を重ね、2016年に「HBX」と呼ばれるライブ型オンラインケース授業を完成させました。これは、MBAを取得するためのものではなく、非学位の社会人教育として開発されました。当時はまだZoomが普及する前で、スタジオはキャンパス内ではなく、ボストン市内の放送局スタジオ1Fの倉庫を活用してセッティングされています。私も二度ほど訪問したことがありますが...もはやテレビ番組制作さながらの環境です。
育休者を対象としたライブ遠隔授業(2018)
Zoomの登場によりライブ遠隔授業を開始する準備が整い、ハーバードビジネススクールやIEビジネススクールのオンラインMBA教育に関する知見も取り入れた日本初のライブケース授業が開始しました。限りなく教室の空気感を再現するための工夫が数多く取り込まれております。まずは厚生労働省からの支援を得て、出産・育児・介護・転勤などの理由で物理的にMBAクラスに通うことが困難な女性を対象に、厚生労働省からの支援を受けながら《無料》で提供を開始しました。
非常事態によるオンラインMBA授業(2020)
コロナウイルスによる公衆衛生の問題から、2020年度の対面授業を全てオンラインに切り替えて開始することが決定しました。全教員が「この事態にいかに向き合うか」という意識の高まりと、この数年間の海外ビジネススクールでのオンラインを活用した遠隔授業の事例例を参考に、ライブ型の遠隔授業に対する理解と技術が大幅に進んだ結果です。物理定な制約を受けない遠隔対面授業の魅力を、最大限に引き出すことに注力がなされました。
最新のオンラインMBA事情(2022)
多くのMBAが教室授業に戻り、いくつかの授業はオンライン形式として残る結果に。本学の場合は以下の形で、より高品質な経営教育として2種類の学修環境を整備しました。MBAの入門的扱いとなる「PreMBA」はオンラインのみで完結する教育課程とし、国際認証を受けた国内唯一のライブ型の遠隔教育となります。
- MBA = 教室授業
- PreMBA = 遠隔授業
導入教育としてのオンライン授業
最近の話題としては、経営大学院が社会人教育として提供する「PreMBA」がオンラインで提供されている点。MBA教育のエッセンスが凝縮された教育課程として提供されることが多く、従来では十分に応えきれなかった社会人の学び直しニーズへの解としての存在感が高まってきています。
オンラインMBA入門の特徴
- MBA入学前の基礎課程として
- 経営学初学者のための導入教育として
- 社会人のための教養教育として
- 育休取得中のリカレント教育として
名称 | オンラインMBA入門 |
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修了要件 | 12単位(1年制)もしくは24単位(2年制) |
授業形式 | ライブ型遠隔授業 |
教育課程 | PreMBA(修了認定課程) |
国際認証 | AACSB・EQUIS・AMBA |
出願資格 | |
1年制(大卒) | 実務経験3年以上 |
1年制(短大・専門卒) | 実務経験5年以上 |
2年制(高卒) | 実務経験7年以上 |
授業日程 | 週末授業 |
教育訓練給付制度 | 利用可能 |