経営教育のサイエンスとアート

今年のノーベル経済学賞にカード、アングリスト、インベンスの3氏が決定しました。社会の中で自然に起きる現象の原因と結果を観察する「自然実験」が、社会の諸問題への対応に役立つことを証明したと評価されたとのことです。

社会現象を説明するための理論は数多く存在しますが、それは経済学や経営学だけではありません。心理学や社会学などの学問領域から組織行動を説明するための理論が数多く提唱されています。これら社会科学と呼ばれる領域は「科学（サイエンス）」であるため、再現性もしくは言語化が可能な形式で、事象間の因果性や関係性を統計的有意性をもって説明しようとされます。

一方で、サイエンスと対比されるアートも忘れてはいけません。社会現象の多くがサイエンスで説明可能な一方で、真善美といった人間の内面から湧き出る要素については長らくブラックボックスのまま。創業者の理念をもとに組織運営する手法は「ミッションドリブン経営」として実践されますが、そのミッション自体を創出する仕組みはあまり語られません。

美意識や倫理観のようなアートは客観的にその正当性を説明することが苦手な領域であるがゆえに、MBAのような経営教育の現場で語られる機会は限られますが、実は多くの経営者が重視しているポイント。「部下にMBAより詩人を採用したい」とつぶやく経営者の話もあながち冗談ではないかもしれません。

Written by

栗本博行

大阪大学にて博士（経済学）を取得。消費者行動分析を中心とした経営戦略に関する論文を多数執筆し、近年は事業継承に関する研究やケース開発に取り組む。学内外でケースメソッドのFDを多数実施しながら、国際認証（AMBA）アジア諮問委員、事業承継学会常務理事を務める。