当たり前の話ですが、ケースには書き手がいます。ケースを書くことをケースライティング、書く人をケースライターと呼びます。多くのビジネススクールで多くのケースが書かれ、それがケースセンターといった団体などを通じてビジネススクール間で流通して活用されています。無料で流通している訳でなく、有償です。
つまり、ケース販売はビジネススクールの一つの収入源になっている訳です。
ハーバードのケースライティング
ハーバードビジネススクールは、このケースライティングの分野でも総本山です。ケース出版専門の会社を作っているほどです。ケースを書くためのリサーチャーがいて、教授の指導のもと場合によってはMBA学生にも参画させてケースの情報収集と執筆をしています。
どうやって作っているかと言うと、ケースを使用するコースのデザインから始まって、そのコースで必要なケースの対象企業とケーステーマが決まります。
ケースライティングはまず新聞・雑誌・WEBからの外部情報収集から始まります。さらに当該企業や当該経営者に対する直接インタビューを交えることが多いです。
ハーバードのケースの対象になる企業は、ハーバードのケースにされること自体が名誉なことで、それによって学術貢献ができる、さらに自社のPRにもなるという事もあり積極的で、協力を惜しまないのがハーバードケースの品質の高さに繋がっています。
ケースができると、まずは講義で使用され、その上で外部にも公開されて外販されます。1ケース1000円くらいで売られています。80人の講義で使うとして単純計算8万円ですので、全世界でリピートして講義で使われる事を想定すると結構いい商売をしていると思います。
ケース講師の悩み
ハーバードの場合は、ケースの自社生産体制ができているので、講師はケースの選択に苦労がないと思います。ところが、日本のビジネススクールの講師の1番の悩みは、日本語で使える良いケースが少ないことです。
理由は、まずケースの標準語(ビジネススクールの標準語と言って良いと思います)は英語であり、英語のケースの日本語版が希少であること。
第2に日本発のケースが少ないこと。これは、ケースライティングを実施してかつ外部に流通させている学校が慶應ビジネススクール・一橋ビジネススクールを除けば希少だからです。
第3にこれが一番大きい理由なのですが、日本の企業がケース対象として自社が扱われることに対して、全く否定的なことです。もちろんケースに対して協力的な企業もありますがとても例外です。
ケース=自社の情報が露出するという閉鎖性が日本全体の産業界を覆っています。これは、競合に自社を知られたくないという理由が大きいのですが、それ以上に日本の経営者が己の経営能力に自信を持っていないことの証左と思われてなりません。さらに言えば、論理的に経営していない。だから、自社の情報をオープンにして、ボロを出したくない。下手に責任を追及されたくない。ということだと思います。
高々ケースライティングの話で広げすぎですが、日本の産業界・政治が国際性を失って、低迷している理由が端的に表れている事象と思います。
ケースライティングの普及
日本のケース講師は講義で使用するケースの選定に苦労しています。適切なケースがないので、自分でショートケースを書いたり、日経ビジネス記事、東洋経済記事などで代替していますが、当然ケースとして書かれたものではありませんので、クラス討議の質が低下することは否めない事実です。
もっともっと良質な日本語ケースを書き、普及させることが日本のMBA教育の火急の課題と思います。
そんな中、名古屋商科大学ビジネススクールではケースライティングを修士論文として位置付けて、すべての卒業生にケースライティングを義務付けています。そんなことをしているビジネススクールは世界的にも珍しいと思いますが、これがすごい成果を挙げています。