国会で話題になったそうですが、まず前提として、博士課程(もしくは博士後期課程)で卒業に必要な単位数を取得しただけでは、博士号を取得することはできません。単位に加えて「博士論文」の作成と公聴会などの学位審査プロセスが存在し、その論文審査に全て合格する必要があります。したがって単位取得のみで退学している場合、履歴書上はABD(All But Dissertation「博士号取得に必要な研究論文以外完了」)という状態になり、学位は授与されていないので、学歴もしくは名刺に「博士」と書くことは出来ません。
そもそも、博士論文の作成はビジネス書の執筆とは異なり、論文サーベイに加えて客観的事実や実験の積み重ねに基づく実証研究を行い、他の研究者が報告していない新事実とそれを説明可能な理論の提示と、さらなる一般化が求められます。さらに、博士論文の結論に至る重要な部分は、少なくとも国内外の査読付論文(PRJ)への掲載が必要なので、指導教官がOKを出せば良いわけではありません。専門学会による品質チェックを受けることが求められるのです。
自然科学系と異なり、実験や実証の難易度が高い領域である社会科学系や人文科学系の博士論文作成の敷居はさらに高まり、3年間という博士課程の在籍期間で博士論文を完成させることはさらに困難になります。したがって一旦、退学して数年以内(大学によってルールは様々)に博士論文を完成させて、卒業証書を授与(博士号取得)という流れがつい最近まで一般的でした。退学後、論文を提出して、卒業する、と聞くとなんだか奇妙な仕組だなと思われるかもしれませんが、極端な場合は、単位取得退学後に大学で教職を長年務め、定年時に大学から「博士号」を授与されるという極端なケースも聞いたことがあります。
この仕組みでは国際比較で博士号の取得率が低くなりますので、現在では積極的に博士号を授与する動きがあります。しかし、博士課程の指導教官が博士号を持っていないケースや、生涯を通じて門下生の1人にしか授与しない指導教官、など各種の伝統事情が重なり、現在でも社会科学では45%の大学院生が「単位取得退学」の道を選択しています(文部科学省平成27年度調査)。
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