オンライン授業とは
オンライン授業には同期型(同時双方向型)と非同期型(オンデマンド型)があり、ともに通信技術の進展に伴い充実した教授法として確立しつつあります。前者の同期型は教室と教室とを繋ぐ方法が主な運用方法でした。高速な通信回線と遠隔会議装置を各拠点に設置することで、ほぼ遅延のない高品位なライブ授業を提供する方法が確立されています。従来はこうしたシステムは一式数百万円から数千万円と極めて高額で、外資系企業が役員会議で使用するものを使用していました、しかしながら近年では低価格化が進み、ついにノートパソコンやスマホでも実現できるようになり、教室と自宅(会社)をライブ接続する手法が編み出されました。
後者の非同期型は「収録」された教材をオンデマンド配信するもので「MOOC」がその代表格です。MOOCとは大規模公開オンライン講義を意味するMassive Open Online Courseの略で「ムーク」と呼ばれます。インターネット環境があればいつでも誰でもアクセスでき、予め収録された動画を無料で「視聴」し、追加的に反転授業(教室での授業)への出席や試験に合格すると単位や修了証を取得できる場合「も」あります。物理的に通学困難で進学を諦めていた方々に教育を提供する手段として、大きな貢献を果たしてきました。
オンライン授業の教育効果は高いのか?低いのか?
教室授業に慣れ親しんでいる私達にとって遠隔授業に慣れるには多少の時間が必要ですが、教室授業にも優れた点とそうでない点があり、オンライン授業もまた同様です。少なくとも両者は同等で、どちらが上/下という位置付けはなく、徹底的に拘りながら提供すべきものです。両者ともにここまで工夫すれば大丈夫という水準はなく、教育ミッションの下で教育効果を慎重に検討しながら改善を続けなければなりません。
また教育効果についても、提供する教員側や学生側の意見は貴重ですが、学生を採用する企業側の評価を意識することも重要です。この要素の検証には時間が必要となるでしょうが、今の段階での肯定的な意見は、オンラインでも(ライブ型であれば)何ら遜色ないと考える意見が大多数で、否定的な意見は、両者の(機器操作に関する)慣れの部分に起因しているようです。
教育力の優劣をあぶり出すオンライン授業
一方で、オンライン授業の導入に対する否定的な意見は多くの場合「教育力がない」教員から出てきます。参加者の理解度や参加者との対話に何ら興味がなく、一方的に自説や教科書を朗読するタイプの授業に慣れ親しんだ教員にとって、オンライン授業への登壇は「恐怖」でしょう。あれやこれやと否定的な正論で逃げ回ることが予想できます。そう、オンライン授業の導入によって「教育力」の優劣が明確にあぶり出されることになるのです。その前提で、以下ではオンライン授業に関する誤解や導入に向けての手順をご紹介します。
オンライン授業に関する誤解
オンライン授業とは何かを考える上で、まず教育機関が提供する授業提供方法を以下のように類型化します。そもそも一体どこまでを「授業」と呼んでいいのでしょうか?オンライン授業には、モニタ越しに参加者と教員が同時双方向で進行する極めて高品質なライブ型の授業(B)が世界のビジネススクールでは一般的で、もはや教室内の対面授業と同等もしくはそれ以上の学習効果を有しています。当然ながら成績評価も授業貢献度を重視する教室授業と同じスタイルで実施可能です。
- 教室対面授業(A - 教室型)
- 遠隔対面授業(B - ライブ型)文科省:メディア授業告示第1号
- 動画配信授業(C - 収録型) 文科省:メディア授業告示第2号
- 教材配布授業(D - その他)
一方で、プレゼン資料に「音声」を吹き込んだもはや教育とはいえない「紙芝居」のような「D」も存在します。録画動画の配信を行う収録形型は「オンデマンド」といえば聞こえはいいですが、MOOCのように百万人規模の使用に耐えうるかなり高性能な独自プラットフォームを遠隔で構築して、さらに反転授業(教室授業)とを組み合わせて実践される場合を除けば、実質的に「D」と区別がつかないものばかり。残念ながら今、オンライン授業と呼ばれているものの大部分が「D」に分類されそうな音声スライド教材と課題提出との組み合わせで行われています。
また、LMS(後述)で遠隔授業...という記事を見かけますが、このLMS(Learning Management System)は教材配布、連絡事項、そして意見交換を行うためのWebサービスであり教室内の「掲示板」のような存在。「授業外」での学修支援(予習/復習)のためのツールです。したがって、LMSは教室/遠隔での対面授業を「補う」目的でに使用されるものであり、A・B・Cの授業を行う場合にも必ず使用される仕組みです。LMSでの教材配布(D)をもって「教室授業と同等」と主張することの是非には判断が分かれるでしょう。
遠隔対面授業(ライブ型)vs 動画配信授業(オンデマンド型)
次にBとCを検討します。通信回線を活用したライブ型授業(同時双方向)は教室でのリアルな空気感を伴う学修体験を理想型とし、従来は教室と教室を接続して教員が遠隔で授業を提供することが一般的でした。以前は高速な専用回線と専用のハードウェアが必須でしたが、映像圧縮技術の発展とインターネット回線の高速化、クラウド型のテレビ会議システムの誕生で、パソコンでも高品質かつ低遅延な映像配信が可能になり、遠隔授業として十分運用できる水準に達しました。
一方で、動画配信授業は教育システムと教育コンテンツで構成された学修体験となります。前者は学修管理システム(LMS)、後者は教材(主に動画)のことを指しています。前者および後者ともに商業ベースでE-Learning教材として「販売」されています。E-Learningと聞くと「教師不要の教育手段」という文脈が強い傾向にありましたが、近年のWeb技術の進歩によって参加型の学修体験を提供するに水準にまで育ち、2012年になると無料で高等教育のコンテンツを公開したedXとCourseraが「MOOC」として登場し、E-Learningの価値が見直されるきっかけとなりました。
ただし、ここにも問題があります。MOOCをオンライン授業と呼ぼうとする動きがありますが、MOOCの仕組みは動画配信と掲示板の機能を組み合わせたもの。好きな時間に動画にアクセスして「視聴」する要素が強く「参加」の要素はほぼ皆無です(定期的に動画をクリックすることは求められますが...)。「収録」動画の視聴と課題提出をもって授業と呼び、安易に単位認定を行うのは数百年間かけて高等教育が培ってきた価値を自己否定するような行為は慎むべきです。追及すべきは、MOOCの対抗馬ともいえるSPOC(Small Private Online Course)になります。オンライン上であったとしても、教員と参加者、参加者同士の意見交換という創発的かつリアルな場を提供することが高等教育の使命であり、これを放棄するのは大学教育として危険な判断です。
ライブ型オンライン授業(Live Virtual)の世界的な傾向
ライブ型オンライン授業を模索する動きは世界中でありましたが、その代表例はハーバードビジネススクールが開発したHBX(2014)です。ボストンのケーブルテレビスタジオ内に設置された巨大スクリーンの前で教員がライブ授業をケースメソッドで配信する様子を実際に見てきましたが、テレビ番組を制作するかの様なスタッフに大勢見守られながらのオンライン授業です。現在はキャンパス内に新たなスタジオを建築中と聞いています。
- Harvard Business School(アメリカ)
- Warwick Business School(イギリス)
- IE Business School(スペイン)
- Ross School of Business(アメリカ)
HBXに刺激を受けた世界中のビジネススクールは、最新のテレビ会議装置とライブ配信装置を組み合わせて、様々なライブ型オンライン授業を考案してMBA教育や社会人教育に展開してきました。ビジネススクールの場合は国際認証を取得する必要があるので、さすがに前述の(C)や(D)では話になりません。動画視聴の要素が強い(C)のMOOCを学位課程の単位に組み込む事自体、慎重な姿勢にならざるを得ません。
私の記憶では2019年の時点では、国際認証ビジネススクールのおよそ10%程度がオンライン授業でMBAを提供していたと思います。そのほとんどが「ブレンド型」と呼ばれる遠隔(オンライン)と対面(オンサイト)の組合せ型で、完全オンラインのMBA課程は限られたビジネススクールのみでした。その理由はオンラインでなければならない積極的な理由が少なく、教室での対面授業をゼロにすることへの心理的な抵抗があったといえます。それが、昨今のコロナ問題をきっかけに激変して、授業を100%オンラインに切り替えた大学が「60%」以上になっていると思われます。過去にオンライン授業の配信を経験していた大学とそうでない大学とで大きくその対応に差が出ています。
オンライン授業を提供するための8Tips(教員用)
名商大ビジネススクールは昨今の情勢を鑑みて提供する教育課程の全て(EMBA/MBA/MSc/単科)をこの新年度をライブ型オンライン授業で実施することになりました。当然ながら私たちはケースメソッド100%のビジネススクール、オンラインであろうと座学という選択は絶対にしません。全て本格的なケースメソッドによる「遠隔MBA教育」は国内初となりますが、世界中の国際認証ビジネススクールは既にオンライン教育に切り替えられています。そして遠隔授業のためのTipsも情報共有(Harvard Business Publishing)されているので、そのいくつかをご紹介したいと思います。
- Get to know your online learning management system (LMS) before students arrive.
- Make your LMS look professional and inviting.
- Remember that electronic tools leave electronic traces and use this to your advantage.
- Prepare your next course while teaching this one.
- Take advantage of asynchronous time.
- Emphasize the importance of synchronous time.
- Ask good questions.
- Watch student engagement and adjust for better participation.
Prof. Bill Schiano
https://hbsp.harvard.edu/inspiring-minds/8-tips-for-teaching-online
Harvard Business School Publishing 3/29/2019
1. LMSについて十分理解する
前述のように、LMSとはビジネススクールが教員や参加者に提供する学修管理システムの事で、多くの場合Webブラウザでアクセスすることになります。授業計画書のみならず、課題提示、課題採点、質疑応答、予約投稿、などこの機会に教員もしっかりLMSの機能を確認しておく必要があります。このLMSがオンライン授業の「入り口」になるので、クラウド型で運用しないとアクセス集中でトンデモナイことになります。
7. 良い質問をする
Face to Faceより参加者のリアクションを肌で感じにくいのがオンライン教育、教員が「良い質問」を追求することの重要性は極めて高いのですが、一体何が良い質問でしょうか?私は「明確な質問」を組み合わせることが参加者の集中力を高めるカギになると思います。
- 例)この戦略をどう思いますか?>この戦略に賛成の方は挙手して下さい
- 例)この戦略をどう思いますか?>この戦略のまま進めるか修正するか考えて下さい
- 例)この戦略をどう思いますか?>なぜこの戦略が必要なのでしょうか?
- 例)この戦略をどう思いますか?>競合はこの戦略にどう対応するでしょうか?
8. 受講生の参加度を高める
同じ空間に他の参加者や教員がいないと、緊張感が低下して受け身になりがちです。これは授業でも会議でも同じ事、遠隔会議システムによっては画面の注視度を数値化する機能もありますが、もっとアナログかつ効果的な方法があります。そう、
- 討論型の授業を実施する
- 教員は指示を明確に出す
- だらだら話さない
- プレゼン資料は事前に提示しない事(笑)
オンライン授業でケースメソッドを行う手順(教員用)
以下は、遠隔授業&ケースメソッドという条件で考えた場合の経験です。遠隔でも対面でもケースメソッドの手順(予習>グループ討議>全体討議>内省)は特に変わりません。異なるのは、対面よりも発言や討議に「時間」がかかる点です。教員・参加者ともにこの点を注意して授業に参加しましょう。また、空気感が伝わらないと嘆くのではなく、
- 参加者の表情から反応を感じ取る「感性」
- 身振り手振りでダイナミックに伝える「工夫」
- 参加者との信頼関係を構築する「努力」
この3つを心がけることが大切です。これらは教室授業でのケースメソッドも同じですけどね。
オンライン授業を受講するための8Tips(参加者用)
- 安定したインターネット環境を確保する(有線推奨)
- 環境ノイズを回避するためにイヤホンマイクを活用する(スマホに付属)
- 自宅または会議室など発言可能な静かな場所から参加する(スタバ不可)
- 画面に正対して座り、壁を背面にして逆光を避ける(結構重要です)
- カメラをONにして参加する(OFFでは参加できません)
- 参加者名は指定書式(フルネーム)を表示する
- 配信映像の録画/録音/撮影をしない(マナーです)
- 電源接続して参加する(遠隔会議アプリは想像以上にバッテリーを消費します)
どれも想定内のTipsかと思いますが、授業参加前のチェックリストだと思って必ず全て実行するようにして下さい。劇的に授業に集中できる様になります。もう少し余裕のある方には、あと3点欲張ってみましょう、
- ライティングの工夫と暗い色の服装を避ける
- 後付けUSBカメラを使用する(液晶画面上のカメラは画素数が低いので・・)
- テレビなど大型の画面に外部出力する(リラックスして参加できる技です)
オンライン授業導入にあたって(環境面)
この仕組みでは、この領域は遠隔では教えられない、といった否定的な理由で逃げ回る教員の存在。これはケースメソッドを導入する際もよく聞く話ですが、特別扱いを求める人がいるのは大学に限らずどの社会も共通。また、どの部局の責任でオンラオイン授業を導入するかを議論して既に一ヶ月が経過している大学もあるとか。最後に求められるのは使用するツールとしての良し悪しではなく、参加者との信頼関係を構築するコミュニケーション力です。
オンライン授業に必要なものは?
オンライン授業の実施に必要となるインフラは下記の2つです。重要なポイントは授業管理システム(LMS)と遠隔会議システムを可能な限り理解する事です。どの会議システムも万能ではありませんし常にアップデートされています。システムの欠点を探しながらの合意形成を行うよりも、教育ミッションの実現に向けて、運用で欠けている部分をいかに工夫するか?を最優先にして検討する必要があります。全員が納得する完璧なシステムなど存在しません。
- 授業管理システム(授業外)
- 遠隔会議システム(授業内)
遠隔会議システムはソフトウェアとハードウェアで構成されます。本格的なライブ型オンライン授業を導入するために必要なハードウェアは全てAMAZONなどで入手可能です。本学もほぼ全ての機材をAMAZON配達で揃え、2020/4/4に授業が立ち上がってからも毎週の様に機材をアップデートし続けています。あとは、気合と根性で最高画質の映像と音声を追求するだけです。欲を言えば、高さ調整可能なテーブルや美顔効果が得られる照明装置が空気感を左右することになります。
またLMSはオンプレミスとクラウドの2タイプがありますが、全授業、全時間、全学生、全教員、に対するオンライン授業に対応させる前提で検討しておかないと酷い目に遭います。ちなみに、以下のライブスタジオの写真は2018年に完成させたモデルで、現在稼働中のシステムはさらに小型化かつ高解像度化された高性能版です。参加者側からは気が付かないと思いますが相当マニアックな仕様です...
オンライン授業に必要な機材構成とは
授業という特性上、同時間帯に一度にアクセスが集中します。アクセスが集中する時間帯(授業開始時)に、配信側のインフラに全負荷がかかり予期せぬトラブルが生じますので、負荷分散を検討するか、クラウド型サービスでの運用が安全です。オンライン授業に限らず「自前主義」にこだわって失敗した例を多く知っています。次に、映像の解像度にこだわりすぎると、何もかもが大袈裟な仕組みになります。ライブ感を高めて参加者の意識を高めるのであれば、デジタル要素に投資するのではなく、照明、テーブルの色、高さ、などアナログな要素に拘ったほうがコストパフォーマンスは圧倒的に高いです。
配信機材は特別な仕様である必要はありません、日常的に使用しているノートPCで始められます。ただし、外部モニタ(HDMI)はサイズを問わず用意したほうが便利です。所詮送り出している映像は「300x300」程度です。何十万もかけて、Webカメラ、高速LAN、4Kモニタ、Thunderbolt3接続、にこだわるよりも、まず先に「有線LAN」への接続を優先すべきです。また、有線LANが必須と思われがちですが、現実には1.5Mbps出れば良いので、安定した回線であれば無線でも可能です。
Zoom、Teams、Meet、WebEXを使う場合
- 現場でSPEEDTESTを実行してネットワーク帯域を確認する
- 勉強会や説明会を兼ねて何度も負荷実験を試みる(多くの発見があります)
- 参加者側での見え方を体験する(スマホでも確認すること)
- 最新版にアップデートすることを忘れない(毎週のように出ています)
- 本番と同じ環境で実験する(本番で気持ちに余裕が生まれます)
- 自力で実験する(常に同じスキルを持ったサポートがいるとは限りません)
- 授業に最低限必要な機能に集中する(「出来る」と「使える」は別です)
- パワポスライドに頼りすぎない(黒板、白板、iPadによる板書を組み合わせる)
- スマホをバカにしない(PC内蔵カメラより確実に高機能です)
- 画面外にも受講生がいることを意識する(画面サイズと表示人数は無関係です)
- 授業中大声で叫ばない(音声はマイクで拾っています)
操作環境について
大学教育でライブ配信授業を成功させるためには、多様な年齢/国籍を持つ教員が直感的に操作できることが重要なポイントとなります。と同時に、教員が持ち込む機器も多種多様ですので、映像切替装置とキャプチャ装置が欠かせません。ライブ型遠隔授業のための教室設計においては、この2つの組み合わせが重要なポイントとなるので、教育目標を重視しながら慎重に検討する必要があります。
オンライン授業の導入で「してはいけない」こと
重要なのは、授業開始から定期試験という一連の流れをオンラインで「安全に離陸させて着陸」させることが重要です。一連の飛行を無事にこなせれば、次回からは難易度の高い運用も可能になりますが、離陸前の時点でアクロバティック(高度)な運用を好む一部の教員の議論に引っ張られすぎると、議論が膠着して身動きが取れなくなりがちです。
次に重要なのは「同時双方向」の授業にこだわること。前述しましたが、いくら安全運転とはいえ、スライドにナレーションを吹き込む手法は、単なる教材配布で授業とはいえません。教材配布と課題提出をオンライン授業と呼んだところで、良識ある教員/学生は納得しないでしょう。会社でいえば、掲示板の会議資料に対する報告書をもって評価されているようなもの、絶対に同時双方向の学修体験を諦めてはいけません。
やばいオンライン授業とヤバい大学
「...を通じて担当教員から、資料(PDF、PowerPoint、動画等)の提示や、レポート(Wordで
の作成)等の課題が提示されます。」といった掲示を見たら要注意です。これは通常授業でも実施すべき「課題提示」であり、決して「教室授業」と同等と呼ぶことはできません。
と同時に、教育を続けることに興味がないのか、ウェブサイトで高校生に「失敗を恐れるな」、「挑戦は楽しい」、「世界は...」と呼びかけながら、オンライン授業に「挑戦」しない大学にヤバみを感じます。
オンライン授業で忘れていけないこと
公衆衛生という不測の要因で、急拡大した「オンライン授業」。筆者はどちらかというと教室授業をこよなく愛するタイプの人間です。そんな私が「信念」を持って追及しているのは、教室であろうと遠隔であろうとその「臨場感」。臨場感あふれる教員と参加者の質疑応答や参加者同士の意見交換を伴う学修体験を追求することに全ての情熱を捧げる必要があります。当然ながらシステムや配信技術には多くの改善余地があり、今後も継続した投資が必要になりますが、創発的かつリアルな学修体験こそが高等教育の価値と信じながら、第二弾のオンライン授業を水面下で準備しています。
オンライン授業あるある(番外編)
- プライベートチャットでメッセージを送った相手は公開チャット
- 授業後に二人でオンライン飲みするはずが・・・受け取ったIDは授業用
- 授業中は先生より気になるあの子の画面を最大化
- 白熱のオンライン授業中に猫の声
- よく見たら教授の子どもが後ろでVサイン
- 体育はeスポーツでバトルフィールド!
なぜオンデマンド型の授業が止まりやすいのか?(TCP vs UDP)
オンデマンド型の授業の場合は事前に配信用のコンテンツを作成します。仮にプレゼン資料に100分近い授業のナレーション動画を上手に埋め込んで200Mにしたとして、それを100人がダウンロードすれば20G。それを40科目同時に開講すれば800G。これらの単位はバイトなので、通信で使用するビットに換算(1Byte=8Bit)すると6.4TBit/100分 = 64GBit/分 = 1GBit/秒。確かにネットワークは1000Base-T(1GBit/秒)以上に対応したCAT6が主流ですが、そんな理論値が出るはずはありません。
オンデマンド型の動画配信は信頼性を優先するTCP方式(Webやメールなど)なので、パケットのヘッダ作成に伴うオーバーヘッドや再送制御などで少なく見積もっても20%程度は実行速度が低下します。さらにIT装置はピーク性能に近づくと処理速度を下げてシステムを保護しようとするので更に性能は低下します。一方で、ライブ型のオンライン授業の場合はUDP方式になり、ある瞬間に受信できなかったデータは取り戻せません(画像や音声が乱れる状況になります)が、繋がらないという状況にはなりくい特徴があります。
とはいえ、ライブ型のオンライン授業にすれば安心という意味ではなく、使用する遠隔会議システム(Skype、Zoom、WebEX)のデーターセンターの混雑状況次第で映像品質が左右されてしまうという側面があります。
オンライン定期試験に向けての7つの基本Tips
ライブ形式の遠隔授業を開始(離陸)したのであれば、ライブ形式で定期試験を実施し、無事に着陸しなければなりません。私達の経験をもとに、実施のための7Tipsをご紹介いたします。各種の検定試験がオンラインでの実施に切り替えているようですが、いずれもオープンブック方式(何かを見て参考にできる)になりますので、出題量や試験運営にそれなりの工夫が求められます。
- シンプルにする(個別教員の単独行動を慎む)
- メール提出にしない(トラブルの温床です)
- 代替案を用意する(完璧なシステムはない)
- 筆記試験で実施する(法令対応の意味を含めて)
- 何度も勉強会を実施する(学生側よりも教員側の話です)
- ライブで試験監督を行う(緊張感を高める)
- 問題を工夫する(教員の腕の見せ所です)
ライブバーチャル授業の登場
2020年後半になると、欧米のビジネススクールの多くがオンライン授業という言葉を使わなくなりました。理由は簡単です。単にパワーポイントに音声を吹き込んだ非同期型(Self-paced)の授業を「オンライン授業」と呼ぶ教育機関が多く、それらと峻別できる様に「ライブバーチャル授業」と自らの同期型/双方向型(Real-time)のライブ授業を定義する様になったのです。本当?と思うのであれば、トップビジネススクールのウェブサイトを一度確認してみましょう、HBS、INSEAD、IMD、LBS、ほらどこもOnlineとLive Virtualと使い分けているのがよくわかると思います。